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サブカルの消失、カルチャーの保守化 ーイベントレポート【Off Topic Ep146】

アメリカ・オクラホマ州で生まれ、フロリダ州ペンサコーラで育ったデヴィッド・マークスは、ハーバード大学東洋学部在籍時のカルチャー誌を発行する日本の出版社でのインターンシップを経て、ファッションジャーナリストとして日本のカルチャーのありかたを研究し続ける、日本在住19年のカルチャージャーナリストだ。 日本が発掘し、外側から形成されたアメリカンスタイルの文化的アイデンティティについて綴った『AMETORA(アメトラ)』や、私たちの嗜好やアイデンティティ、そして文化や流行のサイクルがどのように形成されるかを「ステータス」と いう観点から考察した『Status and Culture』が著書にある。

Off Topic」の最新回「#146 Off Topic Talk公開収録を振り返り」では、12月6日に開催したイベント「Does status create culture? Off Topic Talk」で実施された、デヴィッドと「Off Topic」パーソナリティ・宮武徹郎の対談を配信。今回のnoteではデヴィッドのことばや視点をピックアップし、過去のOff Topic「#130 本当に私はこれが好きなのか...?サブカルをコモディティ化するソーシャルメディアとモノカルチャー」や「#141 成功したい?モテたい?世界を変えたい?人間らしい欲望を形成するもの」でもテーマにした、これからの「サブカルチャー」と「ステータス」について紐解いていく。

なぜ、流行は存在するのか

裏原宿のファッションが隆盛を極めていた90年代。8月の炎天下、NIGO®と高橋盾が原宿にオープンした「NOWHERE」にTシャツを買うために行列をなす若者を目にし、デヴィッドは日本のストリートカルチャーを卒業論文のテーマにすることを決めた。

「アメリカでは個人の意見や思考が様々でノイズが特にあるはずなのに、なぜみんなが一様に同じものを買ったり特定のアイコンの行動を真似るといった、『流行』という社会的な現象が起きるのか。学術的な研究もほとんどなかったので、そのプロセスにとても興味を持っていました。

そのなかで、1日に1000枚は売れるTシャツを200枚しかつくらないという、当時アメリカではほとんどみられなかった『A BATHING APE』のマーケティングは新鮮だった。さらに、ただのTシャツを、なぜこうも消費者はこぞって欲しがり、高い値段で買うのか。そうした文化のなかにあるなにがしかの法則を探っていくと、最終的には『ステータス』という概念にたどり着くんです」

ひとが何かを欲したり模倣をするのは、それを得たときに感じられる経済的なステータスによるものだけではないとデヴィッドは語る。単に高価なものを買うだけでなく、誰が、どのように身につけているか。それを自分が身につける、真似をすることによって、自身が社会のなかでどのように見られるか。つまり、社会的なコンテクストと連動してステータスは決定付けられる。

「特定のコミュニティやシーンのハイヒエラルキー(たとえばイケてるひと)が身につけている、聴いているから、それを真似することによって自分も同じレピュテーションを受けているヒエラルキーに属していると感じられる、または感じてもらうことができる。そして、そこには新陳代謝があり、どんどん古くなっていく。

マルクス主義の『使用価値 (value in use)』はモノの機能的な価値にもとづく取引可能な価値を指しますが、モノやコトの『ステータス価値(status value)』とは経済性だけで決まらず、その価値は社会的なものです。つまり、永久的な意味を持たない。新しいものは模倣を繰り返されてマス文化となるので、誰もが知っているもの/持っているものはステータスとなりにくいからです」

「ステータス価値」は無効化される?

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