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自分を洗って観る

なんだよおい。いきなりダジャレか?
そんな出だしで読んでくれるお人好しはいませんよ?(笑)

僕の仕事はクリーニング店の経営としみ抜きを中心とした技術指導や、それに伴う仕事のサポート業だ。本来はそこそこ腕の良い(と思っている)しみ抜き職人であるのだが、執筆活動やメディアでの活動も業界人としては随分させてもらっている。特に執筆については業というほどではないが、業界新聞をはじめ、ウェブサイト、自分のブログ、テキスト、SNS販促などで日々文章と闘っている。雑誌にもいくつか取り上げられたり、監修の仕事も入ってくる。

クリーニング業というのは恐ろしい伏魔殿のような業界で、クレーム産業として必ず名前の挙がるビジネスである。今のようなSNSでの交流が少なかった時代は、自分のビジネスを俯瞰的に感じる機会も少なく、とにかく孤独なスタートだった。

それまでは、郵便局に勤めながら、書道家活動をしていた訳だが、仕事にも慣れてきた頃、父親が病気で長期入院することになった。父は自分の店を持っていたが、機械を入れていたお店が建て替えになってしまい、建て替え後機械を入れて工場にすることが出来なくなってしまった。

僕が言うのも何だが、父はその昔アイロン職人として、かなり色んなクリーニング店から、当時引っ張りだこの指名率トップ3の人気職人であったそうだ。色んなクリーニング店を回り、父の印象に残るクリーニング店を参考にして、自分で商売を始めた。1978年4月。白栄舎クリーニングが目黒区八雲で営業開始される訳である。

そのお店が建て替えになった事で、他所に勤めることになる。店が繁盛していたということで、建て替え後、店舗はそのビルのテナントに入れて貰えた。これは今思えば、とてもありがたいことで、その場所は今、ユニクリーニングとして、僕が継承している。とはいえ、まだ、母が社長として元気なので、僕は専務といったところか。一応、代表と名乗っているが、法人でないので、その辺は適当といえば、適当である。

他所に勤めていた父であったが、どうもその会社の仕事が気に入らない。父が勤めに出て数年、僕も郵便局に入って、一人暮らしを始めるのだが、帰る度に勤め先の仕事の酷さを嘆いていた。いつも、自分のお店の分の仕事は、他のスタッフにやらせずに、自分でしみ抜きして、仕上げもチェックしていたと言っていました。まぁ、父は仕事が好きな人だったし、仕事に関してはストイックな人であったと今でも思う。

あ、まだ、生きていますけどね。数年前の病気がたたり、今は闘病生活という感じで仕事は完全引退していますが。

そんな仕事に嫌気がさしていた父は、しれっと新しい自分の工場を作ってしまった。これには自分も驚きました。僕は郵便局に勤めていたので、自分には関係のないこと。それでも、よくがんばるなぁ。この仕事が好きなんだなぁと思ったものです。その数か月後、自分がそこで仕事しているとは、夢にも思いませんでしたけれど(笑)

この仕事の裏側的な話をしようと思っていたのに、僕がこの仕事に就くいきさつだけで、こんなに文字数を使ってしまった。本当はもっと、複雑でいろんなエピソードがこの時間軸に起こっているのだが、それはまた機会があれば、別の場所でお披露目するとしよう。

といういきさつを越えて、スタートした新工場であったが、父がぶっ倒れることになる。初めは、結核と診断された。そして、セカンドオピニオンで重度の糖尿病となる。最初、この時点で数か月の命的な話になり、家族は慌てた。僕は父とウマが合っていた弟がお店を継ぐものだと思っていたのだけど、当時弟はまだ高校生。半年以上の入院ということだったのだけど、弟に仕事させるわけにもいかず、結局、自分がやることになってしまった。

本来は一年位、店を手伝いながら、郵便局に勤めようと思ったのだが、いろんなことがうまく行かず、結局、退職して新工場を継続することになった。多少、自分も感傷的になっていたので、この様な洗濯、ではなく、選択をしてしまったわけだが、自分がもう少し大人だったら、もっとクールな選択をしていたかもしれないと、今では思う。いや、そうに違いない。

クールな選択が出来なかったばかりに、今ではクールな洗濯をしているという、とても興味深い歴史的背景の中、僕は現在を過ごしている。

とにもかくにも、昭和のクリーニング店に生まれた長男は、クリーニング店の跡取りとして、家業を継ぐことになる。そして、これがしみ抜き洗濯芸人うにぞうの始まりだ。

思い描いていた、大学への道、お笑いへの道、アメリカへの留学、書道家への道、デザインの道、作詞もした。けれど、それはクリーニング屋の子倅には、手の届かない夢物語であった。

そんな僕が今。

ここでどんな言葉を紡いでいけるのか。

それは僕にもわからない。






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