種苗法改正で品種の海外流出を防げるか

【種苗法改正案】品種の海外流出を防ぐために改正が必要か。

 種苗法とは、新品種を開発した人の利益を保護し、種を使う側である農家の利益と調整をする法律です。
 最近、いちごやぶどうの品種が海外に流出し、そこで栽培されて、輸出もされているとのニュースが流れました。そこで、これを防ごうと、今国会に改正案が出されました。
 大臣は先日の閣議後会見で、海外流出防止の必要性を訴え、改正の必要性を強調しておられました。田村貴昭議員と事務所スタッフも、流出阻止はぜひとも必要だと考えています。
 しかし、この改正が流出を防ぐことになるのか、疑問に思っております。
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 大臣は会見で、「登録品種であっても、海外流出を止められません!」と訴えておられました。その通りだと思います。日本の登録品種を自家増殖した種や苗を輸出することは現行法でも禁止されていますが、ポケットや荷物に入れた種や苗を検疫で発見することが困難なためです。検疫官の方にもうかがいましたが、動物検疫のように探知犬を使っても見つけるのは難しいそうです。

 だから農水省は従前から、「種苗などの国外への持ち出しを物理的に防止することが困難である以上、唯一の対策は、海外において品種登録を行うことである」としてきました。まったくその通りだと思います。
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 しかし農水省は、国が開発したシャインマスカットの海外での品種登録を怠っていました。なぜかと聞くと、「日本に輸入されなければいいやと思っていて、他国に輸出されることまで考えていなかった」と答えました。ガックリです。大臣は、この海外での登録について会見で言及しませんでした。

 ではなぜ、改正で農家の自家採種を禁止すれば防げるというのでしょうか。大臣は中国や韓国で日本の品種が栽培されるのを防ぐため一刻も早く成立をと訴えました。しかし、その内容は大変頼りないです。

 農水省は、「自家採種を許諾制にすれば誰が自家採種をしているか、ある程度補足できる」といいます。これが唯一で最大の理由です。
 いや…それで確信犯的にコストの安い海外で生産させようとする輸出入業者が種苗をゲットするのを防げるのですか。はなはだ疑問です。
 「改正の影響をモロに受ける」というりんご農家さんのサイトを見ましたが、「果樹なんて、枝を数センチ切り取っただけで簡単に自家増殖出来てしまう」と書いておられました。
 「悪意のある人間ならポケットに忍ばせ海外流出なんて簡単です。海外流出を防ぐための種苗法改正なんて言われてますが、農家の自家増殖を禁止することによって海外流出のリスクを減らすという効果は全くないと思います」とのことです。その通りだと思います。
https://applefarm.jp/2020/05/21/shubyouhou/

 そもそも、どこでどのような農業がおこなわれているか、きめ細かく把握して、支援する体制を壊してきたのは誰か。地方農政局の人員を削り続けてきたのは誰だったのでしょう。
 「今回の改正で自家採種が許諾制になると、いちいち農家が許諾を取りに行かなくちゃならなくなるので不便ではないか」という意見に、農水省は「それは農協などで一括して許諾できるので大丈夫です」といいます。一括で許諾したらまた把握できなくなるじゃないですか。一体どっちなのでしょう。

 新品種を作るにはお金がかかりますから、かけたお金が回収できるようにしなければなりません。
 一方、農業の本質は種からコピーを作ることです。しかも農家は、よりよいものを作るため、増殖した種苗を選別し、再び植えることで気候や土に合ったものにしていきます。
 この両者のバランスを取るため、種苗法は農家に限って自家採種を自由とし、開発者が自家採種をしてほしくないときだけ、制限をつけられるようにしていました。
 今回の改正は、これを一律に禁止とし、開発者が許諾したときだけ、自家採種できるように逆転しました。
 しかも、開発者が裁判で勝ちやすいよう、実質的に立証責任を転換しました。つまり、訴えられた側が、開発者の権利を侵害してないことを証明しなくてはならなくなったのです。

 はっきり言って、これはやりすぎです。農家の自家採種の権利と育種者権のバランスを崩します。
 海外での栽培を防ごうというのであれば、農水省が明確に述べていた通り、品種の海外での登録をしっかりすることです。
 つまり、どういうことかというと、目的がほかにあるということです。これが大事です!

 どのような目的、背景があるのかについては、先日述べた通りです。鈴木先生の解説が非常に分かりやすいです。
鈴木宣弘 東京大教授
https://t.co/Pasai6NvAE

このコラムも分かりやすいです。
柴田明夫 資源・食料問題研究所代表
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