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【インタビュー前編】オクトパスエナジー、英国発の“ディスラプター”は日本の小売電気事業をどう見ている?

オクトパスエナジーとは?

(出典:オクトパスエナジー)

はじめに、オクトパスエナジーの母体である英国のオクトパスエナジーについて少しだけ解説しておきたい。英国には、古くから事業をしている大手電力会社が6社あるが、オクトパスエナジーは新規参入の電力会社で、2015年にロンドンで創業した。

オクトパスエナジーは、テック企業というアイデンティティをベースに、再生可能エネルギーなどに由来するグリーンな電気をリーズナブルに提供する電力会社だ。事業を支えるクラウドシステム「クラーケン」は同社が独自に開発した。

同社は現在、英国を飛び出してドイツ、スペイン、フランス、イタリア、米国、ニュージーランド、そして日本の世界8カ国、300万軒の顧客へサービスを提供している。アジア初の参入先として選んだマーケットが、日本だった。

わずか半年で9エリアへ供給拡大、それも今

(戦略企画マネージャーの悦喜亮二氏。出典:オクトパスエナジー)

2021年1月、オクトパスエナジーは東京ガスと合弁会社を設立した。同年11月から家庭向けに電気を販売している。東京ガスは2022年6月現在、国内トップシェアの新電力である。

そして、多くの新電力が小売電気事業から撤退する厳しい状況の中、オクトパスエナジーは今年6月、沖縄県を除く全国46都道府県に供給エリアを拡大した。国内での事業スタートから、わずか半年ほどで9電力エリアへ進出したことになる。

しかし、電力市場に目を向けると、昨年秋ごろから高止まりの傾向が顕著になってきた。市場の高騰は、同社の事業展開のスケジュールに影響を及ぼすことはなかったのだろうか。

オクトパスエナジー、戦略企画マネージャーの悦喜亮二氏は「まず、オクトパスエナジーのブランドを日本で立ち上げた目的が『日本全国にグリーンなエネルギーを広げよう』というものだったので、全国展開はもともとするつもりで事業を始めていました」と語る。

「スケジュール感という意味では、実は、オクトパスの感覚からすると若干遅れています。ですが、これは新型コロナの影響で、英国のメンバーが日本に来られなかったこともあり、システムや業務体制の立ち上げをすべてオンラインで行っているため、当初想定よりも時間がかかってしまったところがあります」。(悦喜氏)

とはいえ、国内のエネルギー会社の時間軸で考えると、かなりスピーディな事業展開だと感じるが「オクトパスブランドとしては、もっと早くできたのにちょっと遅れちゃったな、と考えているようなイメージ」だという。

その一方で、このところの市場高騰の影響に関しては「非常に厳しい市場環境であり、電源の調達が難しいほどの市況になっていますが、日本のオクトパスエナジーは小売電気事業を始めたばかりであり、顧客基盤を整えることが喫緊の課題であるため、現時点では市場高騰の影響を受けて足元の顧客獲得活動を弱めるということは考えていない」と話す。

日本でのオクトパスエナジー立ち上げのスピーディさについて少し補足するなら、オクトパスエナジーは世界各国で数々の現地法人を設立してきたが、日本での立ち上げは記録的なスピードだったという。

同社マーケティング・ディレクターの厚地陽子氏は「会社設立からサービスのローンチまで約6ヶ月という期間は、オクトパスの中でも驚きのスピードと言われていました。それを、すべてリモートで行い、しかも、アジアの中でもトリッキーといわれる日本のマーケットでそれが実現できたのは、東京ガスメンバーの柔軟さと効率よく事業を推進できる環境が整っていたからだと思います」と振り返る。

CO2フリープランの方がお得という価格戦略

(出典:オクトパスエナジー)

オクトパスエナジーは、全世界で「Cheaper and Greener (環境価値の高いエネルギーをより安く)」という哲学を貫いている。日本においてもこのフィロソフィーが体現され、標準の料金プラン「スタンダードオクトパス」よりも、CO2排出量実質ゼロの「グリーンオクトパス」が割安な価格設定となっている。

近年、CO2排出量実質ゼロの料金プランを展開する電力会社が続々と増えている。しかし、それらのほとんどは標準的なプランより割高であることが多い。

なぜなら、電力会社がCO2排出量実質ゼロの料金プランを提供するには、非化石証書などの環境価値を購入して、電気のCO2排出量を打ち消さなくてはならないからだ。こうした非化石証書分のコストが付加されるため、CO2排出量実質ゼロの料金プランは割高になりやすい。

ところが、オクトパスエナジーでは、通例に反して「グリーンオクトパス」の方がお得な価格設定だ。まさに、エネルギー業界の“ディスラプター”たる所以を感じる。

挑戦的な価格設定の背景について、悦喜氏は「我々がやりたいのは、日本全国にグリーンエネルギーを使うという文化を根付かせるということ。何はともあれ、お客様にグリーンなエネルギーを使ってもらうというところから始めたいと考えています。なので、企業としてのブランディングも考慮しながら、かなり戦略的な価格を設定しているところです」と熱を込める。

(東京電力エリア『グリーンオクトパス』『スタンダードオクトパス』の料金単価。オクトパスエナジーWEBサイトより筆者作成)※2022年6月22日現在

他方で、標準プラン「スタンダードオクトパス」の価格には、オクトパスエナジーとして「最低限コミットしたいレベル」という意味が込められているという。

「例えばですが、何らかの原因で非化石証書の価格が10倍などに上がってしまったら、グリーンオクトパスの価格を維持することはできないんですね。グリーンオクトパスは今、我々の収益よりも、まずはお客様に知ってもらいたい、使ってもらいたいということで戦略的にちょっと背伸びをした価格にしていますけれども、外部要因(非化石証書の調達コスト)によりグリーンオクトパスの価格が上がってしまうことも、絶対にないとは言えません」。

「そのときには、一旦、お客様にスタンダードオクトパスで待機していただいて、コストを下げる方策を我々が頑張って考えたうえで、コストダウンできたらまたグリーンオクトパスを利用していただきたい。当社として最低限コミットしたいというレベル感を表しているのがスタンダードオクトパスです」。(悦喜氏)

英国のオクトパスエナジーから出向している厚地氏は、日本における価格設定について「日本では、小売電気事業者1社の企業努力だけで変えられる部分は非常に少なかったりしますので、可能な限り早く、日本の多くの消費者にグリーンオクトパスを選んでいただきたいという理想はありながらも、変動性、課題の多い市場では、リスクをうまくヘッジしながら価値を出せる部分も残すという、現実的なスタンスを保っています」と説明する。

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