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【インタビュー後編】オクトパスエナジー、英国発の“ディスラプター”は日本の小売電気事業をどう見ている?
テック企業の真髄「クラーケン」システム
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オクトパスエナジーのスピーディな事業展開や戦略的な価格設定を支えているのが、同社が誇る「クラーケン」システムだ。巨大な海の怪物にちなんで命名されたこの「クラーケン」はクラウドシステムであり、同社の大切な事業基盤となっている。
同社戦略企画マネージャーの悦喜亮二氏によると「クラーケン」は、エネルギー事業に非常に最適化されたオールインワン・システムで、顧客情報管理から料金管理、請求書発行などのさまざまなエネルギーサービスを一元化できるという。未来を見据えた世界トップクラスの技術で構築され、完全フルスタックのエネルギーシステムであるということだ。
「クラーケン」も、当初から機能を拡充することを前提としており、設計思想にモジュール構造であることを織り込んでいた。そのため、世界各国で新たに事業を始める際も、システムの機能拡大をスムーズに行うことができたという。
この点は、エネルギー会社であると同時にテック企業でもあるオクトパスエナジーを特徴づける、最大のポイントであると言っても過言ではない。その理由を、悦喜氏は次のように述べる。
「日本の大手エネルギー会社はこれまで、数百〜数千万軒というお客様にユニバーサルサービスを提供するにあたって、ものすごく堅牢でガッチリとしたシステムを構築してきました。これは東京ガスもそうです」。
「しかし、エネルギー業界は自由化が進み、ユニバーサルではなく多様化が求められるようになってきました。一方、既存の事業者がたくさんのお客様を抱えたまま、一気に新しいシステムに乗り換えるのは、非常に大変。こうした事情があるので、今のところ、伝統あるエネルギー会社でこうした新しいシステムを活用できているところは少ないのではないでしょうか」。
「そういう意味では、以前から事業を行っているエネルギー会社と比べると、システムの部分が強みだと考えています。もちろん、新規参入しているデジタルに強いエネルギー会社は皆、こうした志向性があると認識しています」。
「クラーケン」システムはver.50000以上!
日本市場への参入にあたっては、当然ながら「クラーケン」のカスタマイズが必要だった。だが、クラウドベースである同システムの改修は、世界のどこからでも可能で、英国でバージョンアップすることもできれば、日本から修正をかけることもできるという。
小売電気事業を始めるのに必要な手続きやシステム上の機能などについては、東京ガスが要件を提示し、英国のオクトパスエナジーがそれに基づいて「クラーケン」をアップデートしていったとのこと。「お互いの強みを活かして、かなりスムーズに立ち上げることができたと感じています」と悦喜氏は明かす。
また、日本向けにバージョンアップしたことで、オクトパスエナジー全体のサービス向上にもつながる可能性もあるという。「日本のニーズに合わせて追加した機能は、世界の他の国でも活用できることになります。同様に、今後、別の国で追加された機能も日本がいいと思えば、すぐそれを日本版にしていくこともできます。こういった利点はすごくあると思いますね」。(同社マーケティング・ディレクター厚地陽子氏)
さらに、厚地氏も驚いたというのが「クラーケン」は日々、小さなアップデートを繰り返していくので、余程のことがない限り、いわゆるシステムメンテナンスの日がないということだ。小規模な更新を重ねていくため、どこかでエラーが出ても原因の究明や改善がしやすいという。
どれくらいの頻度でアップデートされているのかというと「誤字や脱字の修正を含めると、1日100回以上システムの中身が更新されていて、現在、クラーケンはバージョンでいうとver.50000以上になっているんです」という悦喜氏の言葉には、筆者も驚きを隠せなかった。
そう聞くと、テック企業らしくAIが自動でアップデートをかけているのかと思いきや「重要なサービスや顧客管理、それを担当するカスタマーサービスメンバーの仕事のしやすさに関わる部分は、勝手に機械が変えるというよりは、ちゃんと人と人とが話して更新していくことが多い」という。
「テック企業のくせに、意外と人間くさいんです」と厚地氏はほがらかに笑う。
加えて、システム側でどのような変更をかければ、オペレーションやマーケティングのメンバーの仕事がしやすくなるのかをディベロッパーが常に注視しており、ときには、ディベロッパーチームが、業務を把握するために他部署のメンバーに張り付いていることもあるという。このようにして高速のPDCAサイクルを回し、業務の効率化を常に図っている。
「アジャイル」と「自分ごと」の企業マインド
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もう1つ、「クラーケン」とともに、オクトパスエナジーの事業スピードに深く関連するものが、メンバー全員の意識によって醸成されている企業マインドだ。
悦喜氏によると、オクトパスエナジーでは「アジャイルという考え方をすごく大事にしてまして、思いついたら、その計画を完璧に練り上げてからではなく、すごく小さい単位ですぐに一度試してみなさい、と。動いてみてダメなら直して、というのを繰り返していけばいい」。
「これはシステムと同じ考え方なんですが、業務側もそれで回しているというのが特徴的です。計画書を作って上申して、というのではなく、気づいたらすぐに始めるというアジャイルな動きが業務の効率化にかなり効いていると思います」という。
事業の中で、小さいとはいえ新しいことにチャレンジするには勇気がいるものだ。
しかし、オクトパスエナジーでは「お客様にとって良かれと思ってやったことが、たとえ思うような結果を生まなくても、そのことを責めることがないという企業文化も、メンバーの心理的安全性を担保することにつながっていると思います」と厚地氏。
また、創設者のグレッグ・ジャクソンCEOら経営陣が、今般の英国でのエネルギー価格高騰で殺到した顧客からの問い合わせに、自ら返信したりSNSを通して返答したりすることもあるという。これも、お客様に関することは、どんな職務に就いていても「自分ごと」とする同社の企業風土を物語るエピソードではないだろうか。
“ディスラプター”から見た日本の小売電気事業
今回のインタビューで筆者がどうしても聞きたかったのが、エネルギー業界の“ディスラプター”であるオクトパスエナジーにとって、現在の日本の小売電気事業はどう見えているのかということだ。
市場価格の高騰などを受け、多くの新電力が倒産や事業撤退を余儀なくされる今、どのエネルギー会社もきつい状況だとしたうえで、悦喜氏は「足元では、この状況をどう乗り切るかという視点にはなってしまうんですけれども、エネルギー供給はやはり、サステナブルなものでないといけないと思います」。
「我々としては、現状をなんとか乗り切ってギリギリセーフ、ではなく、この先、同じようなことが訪れても、どういう事業体制、事業構造、サービスにすればリスクを減らせるかということを常に考えています」。
「発電の燃料を輸入だけに頼っていると、また資源価格が高騰したときに同じ状況に陥ってしまうので、再エネをどう増やしていくかということが焦点になりますが、供給側だけでなく、お客様の行動変容など需要側からのアプローチにも価値があることを理解していただけるような文化をつくっていきたい。当社は、日本の中にどういう文化を根付かせていくかという点で貢献できると考えています」。
「日本で、再エネを含めてエネルギーを安定的に使っていくことを、どういう形で実現できるのかについては、エネルギー会社の使命として考えていかなければならないと思っていますので、現状の一時的な退避策ではなく、長期的な視点を持って、今目の前で起きている需給逼迫や価格高騰という課題に取り組んでいきたいです」。(悦喜氏)
「日本では、いち小売電気事業者ができることが少ないという現状はありますが、だからといって、エネルギー供給のことは発電事業者がやればいいというスタンスだと変革は進まないだろうと考えています」。
「オクトパスでは、それをお客様と一緒に考えていきたい、もしかしたらお客様のご要望の中にヒントがあるかもしれない。お客様にどういうメリットがあったら、どのような行動変容が起きるのか、ということをお示しいただくことで、新しいイノベーションを生み出すことができるかもしれないと思っています」。
「課題の解決策をお客様と一緒に考えていくという点は、オクトパスのユニークなポイントでもあると思います。英国ではマイページですごく楽しいことをやっていますし、クラーケン自体もエネルギーの未来に対して想像力を掻き立てるようなポテンシャルのあるシステムなので、どんどん新しいことにチャレンジしていきたいと考えています」。(厚地氏)
北海道から九州まで供給エリアを拡大し、まもなく沖縄への供給もスタートするというオクトパスエナジー。同社が次に計画しているのが、需要家に働きかけて電気の使い方を工夫してもらうようなデマンドレスポンスや見える化の新サービスだという。
しかも、テクノロジーの力をより高めることで、需要家が我慢したりストレスを感じたりすることのないスマートな電気の使い方を実現したいと話す。今夏には小さなトライアルからスタートし、今冬には何かしら楽しいサービスを展開したいとのことで、今から待ち遠しく感じた。
「ピンチはチャンスと言いますが、人も事業も、ぐっと負荷がかかったときにどう頑張るかで成長していくものだと思います。日本にとって、今は非常に厳しい状況ではありますが、これをきっかけに多くの方々の意識が変わったり、エネルギーセキュリティが高まるという将来に持っていければ、全体としてハッピーになると思います」
と、悦喜氏が最後に、事業を始めて半年の我々が言うべきことではないかもしれないが、と謙遜しつつ言い添えたメッセージが印象的だった。
インタビューを終えて
小売電気事業者にとって厳しい状況が続く中、オクトパスエナジーが供給エリアを次々に拡大しているというニュースは、筆者の目には斬新に映った。
一体、なぜそんなことが可能なのか。もしかしたら、そこには日本の小売電気事業者にとってヒントになる何かが隠されているかもしれない。そこで、思い切ってインタビューを申し込んだ。
快くお受けいただいた同社マーケティング・ディレクターの厚地陽子氏、戦略企画マネージャーの悦喜亮二氏、そして広報チームの方々には心からの感謝の意を表したい。同時に、小売電気事業者が現状を乗り切って、より柔軟で多彩なサービスを展開するための力強いメッセージになれば幸いである。
(掲載の内容は2022年6月22日時点の情報です)
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