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フレイルにならないように高齢者は低栄養に注意して~症状、原因、予防法を解説


元気なお年寄りをみかけるような気がしませんか。

その印象は正しくて、厚生労働省は現代の高齢者に若返り現象がみられると指摘しています(*1)。

しかし高齢者が病気にかかりやすかったり、体調を崩しやすかったりするのは事実なので油断は禁物です。


油断の1つに低栄養があります。

高齢者の健康に関する考え方に「フレイル」があります。フレイルの直訳は虚弱で、厚生労働省はこれを「年をとって体や心の働きや社会的なつながりが弱くなる状態」と定義しています(*2)。

低栄養はフレイルの原因の1つになっています。


フレイルにならないように、虚弱にならないように、健康寿命を延ばすために、低栄養に陥らないようにしましょう。

この記事では、フレイルとともに、高齢者の低栄養の症状と原因、予防法について解説します。


*1:高齢者の身体機能等の現状|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/jinsei100_2_3.pdf


*2:食べて元気にフレイル予防|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/000625526.pdf


フレイルは「健康と要介護の間」の状態


高齢者の場合、身体機能に障害を負うとそのまま要介護状態になってしまうことがあります。フレイルは健康状態と要介護状態の中間の状態にあたります。

厚生労働省によると、高齢者は、肥満の人よりもやせている人のほうが死亡率が高くなります(*2)。

高齢者に「食事でおいしいと感じなくなった」「疲れやすくなった」「何に対しても面倒を感じるようになった」「体重が以前より減った」といった現象が起きていると、フレイルのサインかもしれません。

フレイル予防に取り組んだほうがよいでしょう。


フレイル予防の3原則は栄養、身体活動、社会参加


フレイル予防の3原則は栄養、身体活動、社会参加です。

栄養はこの記事のメインテーマなので次の章で詳しく解説します。

身体活動では、ウォーキングやストレッチなどが推奨されます。「今より10分長く」を意識して運動に取り組んでみてください。

社会参加といっても難しく考えることはなく、趣味を積極的に取り組んだり、ボランティアに参加したりするだけでも、フレイルを予防する効果が期待できます。


低栄養とは


なぜ高齢者で低栄養が問題になるのかというと、若いころと比べると食べることが困難になりやすいからです。

若い人は「あれもこれも食べたい」と思う気持ちが強く、そう思ったら好きなものを買って食べることができます。

しかし高齢になると食欲が減退することがあります。また、食べることが面倒になったり、食べることに疲れたりすることもあるでしょう。

特に、口のなかに入れた食べ物を飲み込む行為である嚥下(えんげ)の力が弱まると、食事の量がどんどん減っていってしまいます(*3、4)。

栄養素は食べ物のなかに入っているので、食事量が減れば低栄養になります。


*3:高齢者の低栄養に、管理栄養士が早期から介入を|駒澤学園駒沢女子大学健康栄養学科教授、西村一弘

https://komeko.ncgm.go.jp/voice/specialist/20211207095604.html


*4:栄養成分表示を使って、高齢者の低栄養を防ぐ|消費者庁

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/health_promotion/pdf/health_promotion_180402_0005.pdf


低栄養の症状


低栄養になると次のような症状が起きます(*5)。


■低栄養の症状

●体重減少

●筋肉量減少

●代謝の低下

●消費エネルギーの低下

●疲労

●筋力低下

●歩行速度の低下

●活動性の低下

●バランス障害

●転倒、外傷が増える

●移動困難

●障害

●要介護状態


これらはあたかもドミノ倒しのように、1つの原因が次の原因を引き起こし、それがまた次の原因を発生させるといったように起きて、健康寿命が尽きる要介護状態になってしまいます。

例えば、低栄養が体重減少をもたらし、それが筋肉量を低下させ、それが筋力を低下させ、移動が困難になり障害を起こし、要介護になる、といった具合です。


*5:フレイルの原因は|国立長寿医療研究センター

https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/07.html


低栄養の原因


低栄養はフレイルの原因になりますが、フレイルも低栄養の原因になりえます。身体活動量や社会参加の量が減ると食欲がわきづらくなったり、食べる意欲が減退したりするからです。

つまり食べなくなることが低栄養の最大の原因になります。

なぜか。それは食べ物のなかに栄養素が含まれているからです(*6)。


*6:栄養に関する基礎知識|国立循環器病研究センター

https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/diet/diet01/


「食べないこと」=「糖質、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルを摂らないこと」で起きる


3大栄養素といわれる糖質(炭水化物)、タンパク質、脂質は食べ物のなかに豊富に含まれています。

脂質は細胞膜の原料になります。

糖質と脂質は人が生きるためのエネルギーになります。

タンパク質も分解されてエネルギーに使うことができますがそれよりも、体をつくるもの、としての役割が重要です。筋肉、髪、爪などはタンパク質でできています。

そして体の状態を整えるビタミンとミネラルも食べ物のなかに入っています。


生きるためには食べなければなりませんが、それは食事で糖質、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルを体内に取り込まないと生きられないからです。


低栄養の予防法:バランスよく食べる


低栄養が食べないことで起きるなら、食べることが低栄養の予防になるはずですが、しかし単に食べるだけではよりよい健康は望めないでしょう。

バランスよく食べることが重要です。

ここでは3つのバランスを紹介します(*2)。


バランスその1:3食しっかり食べる


バランスその1は、朝、昼、夕の3食しっかり食べることです。

高齢者の場合、1回の食事で食べられる量がどうしても減ってきてしまうので1日に3回食べる機会を設けることはとても重要になってきます。


バランスその2:主食、主菜、副菜を用意する


食事を用意するとき、主食、主菜、副菜の3種類を意識するようにしてください。それぞれ次のような内容になります。


●主食:ごはん、パン、麺類など

●主菜:肉、魚、卵、大豆など

●副菜:野菜、キノコ、海藻など


主食、主菜、副菜を用意すると自然と糖質、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルをまんべんなく摂ることができるようになるでしょう。


バランスその3:食材のバラエティを増やす


以下のA、B、Cはいずれも魚なのですが魚種が違います。どれがどれだかわかるでしょうか(*7)。


■100gに含まれている栄養の量

A:タンパク質19.7g、脂質4.5g

B:タンパク質20.6g、脂質16.8g

C:タンパク質26.4g、脂質1.4g


答えは、Aがアジ、Bがサバ、Cがマグロの赤身です。一口に魚といっても成分はかなり違います。

そして、これが肉になったり野菜になったりすれば、3大栄養素の量もビタミン、ミネラルの量も全然違ってきます。

したがって低栄養を予防するには、さまざまな食材を食べるようにする必要があります。


*7:魚介類(鮭,マグロ,ツナ缶など)のタンパク質について解説|森永

https://www.morinaga.co.jp/protein/columns/detail/?id=116&category=beauty


総菜、缶詰、レトルトも有効


食事を用意するのが面倒になると、食欲は適度にあるのに、食事の量や食事の回数が減ってしまうことがあると思います。

面倒になったら無理に自力で料理するのではなく、総菜、缶詰やレトルトを利用するとよいでしょう。これは厚生労働省が推奨している方法です。同省は「料理が大変な場合は、市販の総菜や缶詰、レトルト食品なども活用してみましょう」と呼びかけています(*2)。


サプリなどの健康食品についての考え方


サプリメントで栄養を補うことは、医学や栄養学の専門家はあまりすすめていませんが、しかし食が細くなってしまってどうしても食べる量が減っている場合は、サプリメントなどの健康食品が有効になります。

消費者庁は次のように呼びかけています(*8)。


■高齢者の栄養とサプリメントなどの健康食品の関係

自分に不足する栄養素を特定して過不足なく補うためには一定の知識が必要です。医師や管理栄養士等の専門家に相談しましょう。

錠剤・カプセル状の製品は、栄養素の過剰摂取になる場合もありますので、自分に不足している栄養素を正しく知り、自分の体調をよくみて、栄養成分表示を活用して上手に利

用しましょう。


*8:健康食品Q&A|消費者庁

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/food_safety/pdf/food_safety_190730_0001.pdf


まとめ~食べるって意外に難しいので楽しんで


この記事の内容を箇条書きでまとめます。


●フレイルとは、年をとって体や心の働きや社会的なつながりが弱くなる状態

●フレイルにならないように低栄養にならないようにしましょう

●低栄養の症状は体重減少、筋力低下、障害、そして要介護状態

●低栄養の原因は食べないこと、食べられないこと

●食事で重要なのは3つのバランス「朝、昼、夕の3食「主食、主菜、副菜」「食材の種類」

●総菜、缶詰、レトルトを有効活用する


高齢になると「普通のことが普通にできない」と感じてくるはず。食事もその1つで、それで低栄養を引き起こしてしまうこともあります。

しっかり食べて確実に必要な栄養素を摂ることは、高齢になると意外に難しくなります。

しかし食事には楽しみが含まれます。栄養に凝ってみることで、食事の用意も食事それ自体も楽しくなるはずです。

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