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「また合併するの?」Z 、LINE、ヤフーはなぜ再び2023年に発表したのか


ZホールディングスとLINEとヤフーが合併する――。

2023年2月2日に公表されたニュースですが、デジャビュ(既視感)を覚えた人も多いはず(※1)。

「少し前にも合併しなかったか」と感じた人は、2019年のZホールディングスとLINEの経営統合の発表を覚えているからでしょう。この発表のあと、両社は2021年に経営統合を終えています(※2、3)。

なぜ2021年の「Z・L経営統合」のわずか2年後に「Z・L・Y合併」が発表されたのでしょうか。素人目にも二度手間に感じます。

その背景を解説します。

※1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0254Q0S3A200C2000000/

※2:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01084/111800005/

※3:https://www.z-holdings.co.jp/special/LINE/

Z、L、Yの整理~すでに混ざり合っているのではないか

「2021年Z・L経営統合」と「2023年Z・L・Y合併発表」が発生した理由を理解するには、Zホールディングス株式会社(以下、Z)、LINE株式会社(以下、L)、ヤフー株式会社(以下、Y)の現在のポジションを知っておいたほうがよいでしょう。

2023年2月現在の3社の会社概要は以下のとおり(※4、5、6、7、8)。

■Zの会社概要

●共同最高経営責任者:川邊健太郎、出澤剛

●事業:グループ会社の経営管理など

●本社:東京都千代田区紀尾井町1-3東京ガーデンテラス紀尾井町 紀尾井タワー

●設立の経緯:1996年設立。当初はヤフー株式会社と名乗っていた。2019年に持株会社体制に移行したことで、商号をヤフー株式会社からZホールディングス株式会社に変更。


■Lの会社概要

●代表取締役社長:出澤剛

●事業:コミュニケーションアプリLINEの運営など

●本社:東京都新宿区四谷一丁目6番1号 四谷タワー23階

●設立の経緯:元は韓国のネイバー社の子会社。「現行のLINE株式会社」の前に「前身のLINE株式会社」が存在した。「前身のLINE株式会社」がAホールディングス株式会社となり、LINE事業を「現行のLINE株式会社」に承継した。「現行のLINE株式会社」の設立は2019年。2021年にZホールディングスと経営統合済。


■Yの会社概要

●代表取締役社長:小澤隆生

●事業:ポータルサイト・ヤフージャパンの運営、EC、ネット広告、会員サービス

●本社:東京都千代田区紀尾井町1-3 東京ガーデンテラス紀尾井町 紀尾井タワー

●設立の経緯:「現行のヤフー株式会社」の前に「前身のヤフー株式会社」が存在した。「前身のヤフー株式会社」はZホールディングス株式会社に変更。「現行のヤフー株式会社」はZホールディングス株式会社の子会社で事業会社となった。


3社ともかなり複雑な状態になっていることがわかります。

LとYにはそれぞれ、現行のL、前身のL、現行のY、前身のYが存在します。つまり株式会社の名前は同じなのに、業態がまったく変わってしまっているのです。

Zの共同最高経営責任者の出澤剛氏は、Lの代表取締役社長を兼務していますし、ZとYの本社は同じビルにあります。

さらに、YはZの子会社になっていて、LとZは経営統合が済んでいます。


この状態ですでにZ、L、Yは「混ざりあっている」印象がありますが、冒頭で紹介したとおり2023年に3社が合併すると発表しました。このあたりは後段で解説します。

ここではもう1つの会社である、Aについて整理しておきます。

※4:https://www.z-holdings.co.jp/company/overview/

※5:https://linecorp.com/ja/services/line

※6:https://linecorp.com/ja/company/history

※7:https://about.yahoo.co.jp/info/company/

※8:https://about.yahoo.co.jp/info/history/

Aの整理~大元はソフトバンクと韓国ネイバー

前身のLは、Aホールディングス株式会社(以下、A)になりました。

AはZの株式を63.6%保有するので、Zの親会社です(※9)。

ではAの正体は何かというと、ソフトバンク株式会社(以下、SB)と韓国のネイバー社(以下、N)が50%ずつ出資している会社です(※10)。

Z、L、Y、SB、Nの関係を概念図で示すとこのようになります。


SBとNが大元となってAをつくり、Aの下にZ、L、Yが存在するという構図であることがわかります。

※9:https://www.z-holdings.co.jp/ja/ir/stock/info.html

※10:https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2021/20210224_01/

2021年Z・L経営統合の概要

ここまでの説明で、2021年にZとLが経営統合したのに、なぜ2023年にZ、L、Yを合併すると発表したのか、という疑問が湧くと思います。もしくは、Z、L、Yが合併するなら、なぜ先にZとLの経営統合をしたのか、という疑問が湧きます。

この二度手間は、Z、L、Yなどの関係者も想定外だったようです。

SBGのAI戦略への協力やグーグル検索の利用継続など課題山積

ZとLが2019年に経営統合すると発表したとき、両社にさまざまな課題があることが明らかになりました(※11)。

まず、ソフトバンクグループ株式会社(以下、SBG)との関係です。

SBGはSBとは別の会社で、孫正義氏が会長兼社長を務めるのはSBGです。そして孫氏はSBの取締役も兼務します(※13)。また、Zの共同最高経営責任者の川邊氏もSBの取締役を兼務しています。

したがってZとLは、経営統合するならSBGとのシナジーも生み出さなければならない、という使命を負うことになりました。

SBGは世界中のAI企業に「10兆円」単位の投資を続けてきましたが、2023年現在は「兆円」規模の投資損失を抱えています(※14)。

もちろん2019年の段階でSBGがAI投資で多額の損失を出すことを知る由もありませんが、川邊氏は2019年11月の記者会見で「SBGのAI戦略と協力したい」と述べています(※11)。

また、ポータルサイトのヤフージャパンは、グーグルから検索エンジンの提供を受けています。ヤフー検索の中身は実はグーグル検索なのです。

そして川邊氏は同会見でグーグルとのパートナーシップは良好であると話しました。

検索エンジンはヤフージャパンの重要サービスの1つであり、その生殺与奪をグーグルに握られていることはYの重要経営課題です。川邊氏はグーグルと良好な関係にあるとしながらも、検索エンジンの在り方は「統合後に考える」と、自社開発に含みを持たせました。

※11:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52292940Y9A111C1000000/

※12:https://group.softbank/about/profile

※13:https://www.softbank.jp/corp/aboutus/profile/officer/

※14:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230207/k10013973501000.html

目標達成は困難

SBG自身のAI投資戦略が不調なのに、経営統合したばかりのZ・LがSBGのAI投資に協力するのは簡単なことではないでしょう。ましてやAI投資でZ・Lが利益を得ることは困難を極めるはず。

2019年の時点でZ・Lは、2023年度に売上高2兆円、営業利益2,250億円を目指すとしていました(※15)。

ところがZの2022年3月期(2021年4月~2022年3月)連結決算では、売上高1兆5,674億円、営業利益1,895億円と目標値からかけ離れていて目標達成は困難な状況です(※16)。

※15:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/09767/

※16:https://data.swcms.net/file/z-holdings-ir/dam/jcr:de37e3ea-c099-4d31-8028-7fd2ed87b03b/S100O94C.pdf

そもそも統合効果に懐疑的な見方があった

日本経済新聞系列の日経XTECHは2019年11月に「ヤフーとLINEが経営統合で基本合意、対等の精神に『落とし穴』も」という記事を公表しました(※17)。この見出しの「ヤフー」はZのことを指しています。

記事は、Z・L統合は、SBとNによる共同出資やYとLの出身者が混在する取締役会といった複雑な構成の上に成り立つものなので「意思決定のスピードが鈍る恐れがある」と危惧しています。

Z・L統合の目標である「2023年度、売上高2兆円、営業利益2,250億円」の達成困難を予言した形になってしまいました。

※17:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01084/111800005/

2回も合併するのは1回でうまくいかなかったから

 「2021年Z・L経営統合」に続き「2023年Z・L・Y合併発表」に至ったのは、1回でうまくいかなかったからです。

小手先改革が失敗したから抜本的改革に着手か

日本経済新聞は、Z・L・Y合併は、Z・L経営統合で目立った連携が生まれなかったから実行したとみています。同紙はZ・L・Y合併の狙いは意思決定権を明確にして立て直しすること、分析しています(※18、19)。

Z・L経営統合は大した効果をあげられなかったわけですが、それは次のような状態にあったからです。

■Z・L経営統合は効果をあげていないと判断できる根拠(日本経済新聞の見解)

●楽天グループやTikTokとの競争が激しくなっている

●経営体制の刷新が図られていない

●LINEにおいてずさんな個人情報管理体制が明るみになった

●ヤフーとLINEのID連携が進んでいない

●ヤフーとLINEの広告事業の成長が鈍化している

●スマホ決済のペイペイとLINEペイが併存したまま

●足元の株価が低迷している


Z・L経営統合はプラスになるどころかマイナスになっている部分もあったわけです。

したがって小手先のZ・L経営統合では足りず、抜本的なZ・L・Y合併が必要になったのでしょう。

※18:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0254Q0S3A200C2000000/

※19:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0634R0W3A200C2000000/

そもそも2つもホールディングスがあるのは無駄? 実質的に3つ?


先ほど紹した、Z、L、Y、A、SB、Nの関係を示した概念図をもう一度確認してみます。


AとZはともにホールディングス企業でこれはグループ会社の株式を保有する(ホールドする)会社です。Z、L、Y、A、SB、Nを1つの企業群とすると、そこに2つもホールディングス企業があることになり、明らかに無駄です。

しかもSBとNはAの株を保有する会社なので、これも「ホールディングスっぽい」といえます。

つまり上記の概念図の状態は「3層の株式保有会社+1層の事業会社」という4層構造になっていて、無駄が多いだろうと容易に想像できます。

そしてZ・L・Yが合併すると以下のようになります。


それでも「2層の株式保有会社+1層の事業会社群」となり、1層減ってい3層構造になるだけです。

つまり、LINE事業やヤフー事業は相変わらずA、SB、Nの管理監督、あるいは支配を受けるわけで「すごく効率化される」わけではなさそうです。

まとめに代えて~経営効率の向上は生活インフラの担い手としての責務

2023年2月に行われたZ・L・Y合併の方針を報告する記者会見で、Zの共同最高経営責任者の川邊氏は「意思決定がさまざまに交錯するなかでどうしてもスピード感を上げられない、あるいは考えを1つにまとめられない。そういったデメリットが、この2年を経てかなり出てきた」と告白しています(※19)。

Z・L経営統合が失敗したことを認めた形です。

ただ専門家は、経営スピードを上げるには権限移譲が不可欠で、制度だけ変えても運用がその変化についていけなければ問題は解決できないと指摘しています。さらに、ZはSBの傘下にあるわけですが、ここの構造も複雑になっています。

SBの大株主はソフトバンクグループジャパン株式会社(以下、SBGJ)といい、SBGJの親会社はSBGです(※20、21)。

この部分だけ取り出すと、以下のような構図になっています。


この企業群は、多層構造のなかに上場企業が多く存在する特殊な企業体である、との指摘もあります(※19)。

LのLINE事業や、Yのポータルサイト事業や、SBのスマホ事業はとてもうまくいっていて、国民のライフラインや生活インフラをつくっているだけに、この企業群が経営効率を高めることは国民的関心事であるといってもよいでしょう。

※20:https://www.softbank.jp/corp/set/data/ir/documents/security_reports/pdf/sbkk_fy2021_security_reports.pdf?20221117

※21:https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2022/20220629_02/


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