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セルフレジの罪と罰

【手を汚す公衆トイレの便座クリーナー】

突然ですが、公衆トイレに設置されている便座クリーナー

ホスピタリティに著しく欠けると思いませんか?

メーカーによって押すボタン位置や吹出口が上にあったり下にあったり

消毒液が出る方向も、真下にで出るものや斜めに噴射されるものなど様々

事前にしっかり確認して使用しなくてはいけません

しかし私が公衆トイレを利用する場合ほとんどのケースで急を要しているため、事前確認する余裕がなく、いつも手を汚すことになります(消毒液なのでキレイになっているかもしれませんが)

【セルフレジの罪と罰】

コロナ禍で急速に普及したセルフレジも店によって形式が大きく異なり、私達利用者にとって戸惑いの原因となっています。

最初に誤解なきよう言っておきますが、もちろん慢性的な人手不足状態、セルフレジ自体を否定している訳ではありませんので。

現金投入の場所を探す、レジのスキャン形式の違い、ポイントカードの登録のタイミング、キャッシュレス決済の手順など、店舗ごとに異なる仕様に対応するのは容易ではありません。

例えば、大手スーパーマーケットチェーンのAでは、現金支払い時に小銭を一枚づつ投入する必要があります。一方で、同じチェーンのBでは、一度にまとめて投入できる仕様となっています。

またAチェーン店では自動精算機でPaypayが利用できるが、セミセルフレジのBチェーン店ではキャッシャーさんの段階で決済してもらうシステムになっています。これにプラス、ポイントカードの登録も同様にバラバラです。この違いにより、客は毎回使い方を確認しなければならず、非常に不便を感じます。

さらに、客一人で行う完全セルフレジでの商品スキャンも一筋縄ではいきません。例えば、果物や野菜のスキャン時に、タッチパネルで該当する商品を探さなければならないことがあります。先日、あるスーパーマーケットでキウイフルーツを購入しようとした際、タッチパネルにキウイの項目が見当たらず困ってしまいました。スタッフを呼んで尋ねると、キウイに貼られた小さなシールのロゴ下に印刷された極小のバーコードをスキャンする必要がありましたが、分からずにかなりの時間を要しました。

また完全セルフレジでは、アルコール商品を購入する際に係員を呼ぶ必要があります。これは、未成年者による購入を防ぐためですが、同じチェーン系列のコンビニエンスストアのセルフレジでは「20歳以上」のボタンを自分で押すだけという大きな違いがあります。

こうした店ごとの不一致は、利用者にとって混乱を招きます。

【行為のデザイン】

京都造形芸術大村田智明教授が提唱する「行為のデザイン」という問題解決手法があります。

ユーザー目線の行動に徹底して着目し、ユーザーが滑らかに目的の行為を進められるデザインを目指すものです。

例えば旧来型の家電はユーザーの行動はあまり考えず、使用方法を説明書に細かく書くことで伝えようとしていました。

しかし説明書は読み込まなければいけません。読解力が必要ですし、何より時間がかかります。

行為のデザインとは、ユーザーの行為から商品をデザインすることで説明書がなくても正しい使い方が可能になるという考え方なのです。

その代表選手がおなじみiPhoneです。

人間の行動心理を突き詰めた製品と言えるでしょう。

最初にiPhone を買ったとき取扱説明書が無くて驚いたものです。

しかし説明書がなくても直観的に操作できるUI(ユーザーインターフェース)だったのです。

操作するほど触る事が楽しくなる没入感、初めての体験でした。

ユーザー心理や手順、学習性を熟考した開発者の想像力の賜物だといえます。

逆に先に紹介したトイレ除菌クリーナーやセルフレジのように、ユーザーの行為が止まってしまうような製品は行為のデザインという考え方では、デザインに「バグ(不具合)」があると言えるのです。

【仕様の統一】
このような問題に対する現実的な解決策は、仕様の統一だと思います。

チェーンストア協会などが中心となって、セルフレジの仕様を統一する取り組みを行うことで、利用者の不便さを解消できます。例えば、全てのセルフレジで同じ位置に札入れを設置し、同じ手順でキャッシュレス決済を行えるようにするのです。

そうすることで利用者はセルフレジの利用に対して学習、習慣化しストレスが少ない状態で買い物をすることができます。

また、便座クリーナーに関しても同様に、統一仕様を導入することで利用者の混乱を防ぐことができます。すべての便座クリーナーが同じ噴射方向と使い方を持つようにすれば、利用者は安心して利用できるでしょう。

ここで一つ、参考になる事例を紹介しましょう。

ご存知かと思いますが、シャンプーとトリートメントの容器には、区別を容易にするためにギザギザ状の刻みが付けられています。この刻みは、大手メーカーの花王が視覚障害者や目を閉じて髪を洗う際に区別できるように設けたものです。

先に開発した花王はこの取り組みを業界全体に広げるため、実用新案の申請を取り下げ、日本化粧品工業連合会を通じて業界各社に働きかけました。その結果、現在でメーカーの枠を超え、ほとんどのシャンプー容器に刻みが付けられています。このように、業界全体で仕様を統一することで、消費者の利便性が大幅に向上しました。

このように業界全体で規格の統一化を進めることが、行為のバグを減らすことに繋がるでしょう。

【セイコーマートにおける行為のデザイン】

話は少し変わりますが、北海道を中心に展開するセイコーマートは、高い顧客満足度で知られるコンビニチェーンです。

そのセイコーマートでは、いまだに一部の店舗を除きセルフレジが導入されていないのです。

そしてアルコールやタバコを買うときも店員が確認を行い、客はあの忌々しい成人確認ボタンを押さずにすみます。(他のコンビニチェーンも完全セルフレジ以外はそうすべき)

そのうえほとんどの店舗が有料化を進める中、現在もレジ袋を無料配布しているのです!(もちろん国が決めた、レジ袋有料対象外のバイオマス30%以上の素材を使用)さらに袋詰もしてくれるので、いつもつい買いすぎてしまいます。そのため、道民に広く熱く愛されています。

お客様は面倒くさいことが大キライです。

少しでも手を煩わさない方に買いに行くのです。

もちろん全ての業態が同じように運営するのは難しいでしょう。

しかし単純に全てを無人化・セルフ化に右へ倣えだけではなく、「顧客の行為」からサービスをデザインすることが、顧客満足・売上を上げるためのヒントがあるのです。

お店の無人化が進むのを見るたびに、全てがセルフレジになったら「幸せの黄色いハンカチ」で高倉健は倍賞美津子に出会えないなーといつも妄想しています。

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