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相続土地国家帰属法

 掲題の法律に係るご相談を少し前に初めて受けました。同法は全国で増えている所有者不明土地問題に関わる、民法(特に相続法)、不動産登記法の改正などと共に制定された法律です。
 民法上は、所有権のない土地は国庫に帰属する、処分されなかった相続財産は国家に帰属するという条項はあるが、そもそも土地に関して所有権放棄ができるのか問題も明らかではなく、当然所有権放棄をするためのルールはない状態でした。
 
 所有者不明土地は、国土交通省の調査によれば、九州に匹敵する面積になっており、そのことは民間での土地取引の障害だけでなく。災害復興等に係る復興事業への支障となったり、国土の荒廃、環境悪化等による社会コストの増加にもなってきているとのことです。管理不在の不動産(所謂ゴミ屋敷問題、管理放棄地・耕作放棄地)と合わせて、日本全体に大きな影響が出ていることから、今回、民法(特に相続法)、不動産登記法の改正法等の法整備が検討され、進められたものです。

 所有者不明土地や管理放棄地が増えた原因は、様々な問題が複合的に絡み合っています。戦後の相続法の長子相続から現行の相続法に改められたことでの不在地主の増加、東京の1極集中、少子高齢化の進展、土地の需要の減少(特に地方)、土地に係る情報基盤の未整備、相続登記の任意性などです。

 ここ数年、それらの原因を少しでも取り除くために、様々な対応がなされています。相続では統一的な相続財産管理方法の創設、民法では共有関係の見直し、不動産登記では、不動産登記の信頼性を少しでも高める試みとして相続登記の義務化、登記官による職権による住所変更登記の実施等がなされています。そして、所有者不明土地等並びに管理不全土地等の管理制度の創設、そして相続土地国家帰属法も新設されました。

 相続土地国家帰属法のご相談は初めてでしたが、お客様もよく勉強されていて、必要書類は概ね揃っていました。この事例がこの制度の俎上に上らなければ、どんな事例が適用されるのかといったものでした。難点があるとすると、隣地との境界点のポイントの写真、道路が接面道路がどうかというぐらいでした。実際に道路として使われているので、問題はないと思ったが、そのあたりは実査での国の判断ということでお客様にはお話しました。
 相続土地国家帰属法で、考える問題べき問題として、お一人様問題があります。お一人様問題では、相続人のない不動産が、今後増えていくことが予想され、現民法では相続人のいない相続財産は国家に帰属するとなっています。相続土地国家帰属法は土地という言葉が入っている通り、建物がある土地は引き取りができません。相続人のいない相続財産では、建物が存在することが当然考えられます。建物のある相続財産をどう考えるのか、今回創設された所有者不在土地管理制度・管理不全土地管理制度には建物を対象とした制度もありますが、そもそもそれで足りるのかといった懸念があり、さらにもう一手対策を考える必要が有るのではと思います。

 相続の相談でよくあるパターンは、地方にあるご自分の実家の不動産を相続はしたが、登記はしておらず、すでに共有状態(山林などでは、入会地で他人との共有もあって、相続により共有者が不明といったものもあります。)であったり、このまま代替わりしていくと、共有にもなっていくといったものです。今回の法律の改定は、前述のとおり、所有者不明土地の所有者を少しでも明らかにする、あるいは今後所有者不明とならないための措置が取られているので、それに沿った形での、お話をしていければと思っています。

 この話は地方の不動産に限らず、都市のマンションにおいても徐々に進行していて、マンションの修繕や建て替え、管理機能の維持といったことが、難しくなっていくことが今後想定され、法的な整備のため、国の法制審議会などでも議論が継続して行われています。これらの議論や、制度化も見据えながら、ご相談に乘ることができればと思っています。

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