タウシュベツ日誌 番外編#005 水無月といえど
同時期に撮っても違った風景
すでに6月も終わりに近づいた。今年は水無月という名前が示す通り、糠平湖の底には青々とした草原が広がっている。
平穏な風景を前に、10年前、2013年のこの時期の記憶を写真を振り返りながら辿ってみると、タウシュベツ川橋梁は8割方が水に沈んでいたことが思い出される。
こうして年によって大きく違う状況は、記録写真をアーカイブするやりがいにつながるとともに、後で振り返った際の障害にもなる。
古い写真を見返した時、それが何年前のどの季節に撮ったものなのか一目では分からないのだ。
日々通っては記録写真を撮り続けているのにも関わらず、いやだからこそと言うべきだろうか。そういえば、この2013年5月に東京で開催した写真展会場では、「これは全部同じ橋ですか?」という質問を多く受けたことを思い出す。
たしかに、同じ場所同じ時期であってもこれほど印象が変わる被写体は多くないかもしれない。
過去の写真の頼りはExif情報
春先に最低となり、秋に満水となる糠平湖の水位はたしかに一応の目安になる。しかし、水位が上昇していく速さは毎年傾向が違うので、それが夏なのか秋なのか、写真だけから判断するのは難しい。
撮影した本人でさえも、その日付を思い出すためには写真データの中に記録された撮影日時を頼りにすることが多い。
言葉の意味とは裏腹の光景が広がる「水無月」もあれば、例年であれば橋が水没しているはずの秋になっても湖底が乾いている年もある。
タウシュベツ川橋梁を取り巻く自然環境は多様であり、それゆえ予測が難しい。
経験からの決めごとがひとつ
長く撮り続けてきた中で、タウシュベツ川橋梁を語る上で心に決めたことがひとつある。
それは、先行きを予想しないこと。
もし僕の予想が当たるのだとしたら、もう10年以上前に橋は崩落しているはずなのだ。
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