アーチの中のひしゃくの中へ
先日紹介した写真集『タウシュベツ川橋梁』(北海道新聞社,2018年)の中から一枚の写真を取り上げたい。2012年の冬に撮影したものだ。
星空の下に立つタウシュベツ川橋梁を下から仰ぎ見るアングルで撮影した。空には満天の星、画面左手に赤く染まった空の色は、ここから直線で20キロほど離れた三国峠の街灯の光だ。そして上空を横切る光跡はISS(国際宇宙ステーション)によるもの。空低く、アーチの中に収まった北斗七星のひしゃくの中にちょうど吸い込まれるように消えていく場面を捉えている。
あとにも先にも、狙いと運とが重なって、これほど整った条件で撮ることができたのはこの時だけだ。
予測と期待と運と
冬の夜に凍った糠平湖を歩き、月明かりに照らされるタウシュベツ川橋梁を撮るようになってから10年以上になる。満月では明る過ぎて星が写らず、逆に月がない夜には暗すぎて橋が写らないので、程よい月齢の夜に出かけることになる。もちろん空が晴れていなければいけない。だから、狙って撮ることができる機会は長い冬の間に数回あるかどうか。
この夜はその条件がうまく揃っていた。さらに、ISSが頭上を通過することも分かっていた。ISSの光跡が見え始める方角やタイミング、消えるまでの秒数などは空を見上げるエリアによって異なるものの、事前に調べることができる。詳しい経路を調べ、天文シミュレーションと重ね合わせてみると、どうやら北斗七星の方角に進んでいくように見えるらしい。
北斗七星に向かって消えていくのであれば、タウシュベツ川橋梁を横切るようにフレームに収めるためのポジションも使用するレンズも限られる。あとは現地でカメラをセッティングして日没を待ち、予測通りの時間と地点にISSが現れることを期待しながら空を見上げているだけだった。
予想図を超えた一枚
現れることが分かってはいても、やはりこの待ち時間が長く感じられたことは今でも覚えている。
西の空に小さな光の点が見え始め、みるみるうちにそれが明るさを増しながら橋の上空に向かってくる。もうカメラのファインダーを覗いてはいない。手に持ったレリーズを握り込み、ISSの光が消えて行くまで数十秒、うっかりシャッターを閉じてしまわないように手に力を込める。
完全にISSが見えなくなったことを確認してシャッターを閉じると、背面液晶には狙った以上に見事に北斗七星へと吸い込まれる光跡が捉えられていた。
今につながる原動力
まだ翌2013年に東京で写真展を開くことなど想像もしていなかった頃の一枚。どのような場所で、どのように発表するのかすら何のメドも立たないまま撮り続けていた時期にものにした写真の手応えが、後に写真展や写真集などの形でタウシュベツ川橋梁を世に広めていく原動力になっているようにも思える。
こちらの写真も収めた写真集『タウシュベツ川橋梁』はAmazonでも取り扱っている。
2013年の個展『タウシュベツ拾遺』展示作品をYoutubeで公開中
A Celestial Intersection: The Night the Taushubetsu Bridge Met the ISS