見出し画像

事業の危機管理

経済産業省が「中小企業白書」と「小規模企業白書」を公開しました
毎年度この時期に国会に提出・承認される公文書です

この白書は、前年度の全国の中小企業・小規模企業に取り巻く動向や景況、業種別の傾向などが色々な角度で分析され、今後の課題や検討を要する事項、次年度の国の施策などが示されているものです

参考サイト:2022年版中小企業白書・小規模企業白書(経済産業省)

各白書は、なかなかのボリュームがあり、経済とかにあまり強くない方には読みづらい文書ですが、参考サイトには白書の概要もアップされていますので、概要の方を読みながら興味がある部分を白書本体の該当するところを読むといいでしょう

今回は、中小企業・小規模企業白書に見る事業の危機管理について解説します


■ 危機管理は日常的

よく使われる ”危機管理” という言葉ですが、大規模災害などの事態発生時に使われるイメージが強いと思います
”危機管理能力が問われる”、”危機管理意識がある・ない” という感じでよく耳にします

その危機管理ですが、誰が、何に対して、どのような活動を行うのかなどを理解されてますでしょうか
辞書やウィキペディアなどを参照しても、何だかパッとしないのではないでしょうか

危機管理という言葉のざっくりした意味は、以下の3つのことを総称して言います

  • 対策:危険なことや困ることに対して回避する・被害を少なくする

  • 対処:危険や困ることが発生したら、それ以上の被害・困難を食い止める

  • 復旧:被害などがあれば、可能な限り早く元の状態に戻す

日常生活に例えると・・・

  • 落としたら壊れてしまうスマホを守る
    落とさないようにバッグに入れて持ち歩いたり、落とすことを考えて保護ケースに入れておく

  • スマホを落としたら電源が入らなくなった
    公衆電話などにより必要な相手にすぐに連絡できない旨を伝えたり、代わりの連絡手段を確保する

  • 携帯電話ショップに持ち込んで状態を確認してもらう
    確認の結果次第で、修理するか、新し機種を買うなど何とか電話やメールができる状態に戻す

このように、事前の対策が万全であったため、落としてもスマホが壊れることがなければ、危機的な状況を管理できたと言えます
また、スマホが壊れても、それ以上の困難にならないように対処しつつ、次の行動に移行して元の状態に戻すことができれば、それも危機的な状況を管理できていたということなります

危機管理という言葉は堅いイメージがありますが、実は、日常生活のあらゆる場面で危機管理をしっかりと行っているものです
言い換えると、物事の状況や被害規模の大きさなどが違うだけで、誰もが自然に行う日常生活には危機管理が含まれているのです

それでは、危機管理という言葉をわざわざ使う意味や必要性は何なんでしょう


■ 危機となる境界

もしも、スマホを落としたら、落としたら壊れるということ、壊れたらどうなるということをイメージしなかった場合はどうなるでしょう

スマホを落としてしまって壊れたことを知った途端、何をすれば良いのか、誰に助けを求めるのか、壊れたことで自分がどうなるのかが分からず、その場で慌てるだけとなるはずです

スマホの故障程度であれば、故障の原因、故障の状況、故障による影響、修理と復旧の手段などは容易に考え付くかと思いますが、これが突然の自然大災害や戦争などであれば、事態の規模や自分らに降りかかる影響、対策や復旧の手段などは考えが及ばないことで、人命や事業に致命的な危機となります

では、何事もない事象と完全に終わってしまうような危機事態との境界はどこにあるのでしょう
その境界は、次の三つにあります

  • 発生する事態等の規模に応じた又はそれを超えた対策が講じられているか

  • 被害が出ても復旧できるか

  • 人命や事業運営に影響するか

そして、いずれも予測やイメージできて、行動として実行できるかがカギとなります

自然災害などの突発で被害等の影響が計り知れない事象に対して100%の予測やイメージ化はあり得ませんが、できている場合とできていない場合とでは大きな違いが出てきます

もしも、過去に経験がある場合は、対策やその後の復旧について容易に予測・イメージできることでしょう
経験はなくても、今では書籍や写真・動画などを通じて多くの情報を入手できますので、予測・イメージはできるでしょう

”いつかは起こるかもしれない、その時に何ができるのか、そのために備えておくことは何か”

そういう考え方があるかないかが、自分らの立場を危ういものにするか・しないかにつながります


■ 白書に見る事業の危機管理

2019年末ごろ、その後にこんな事態が次々と起こるとは誰が予測できたでしょうか

  • 新型コロナウィルスのパンデミック

  • 原油などのエネルギー資源の高騰

  • 世界的な天候不順による農作物の収穫減と物価高

  • ロシアのウクライナ侵攻と経済制裁による世界的な経済混乱

  • 約20年ぶりの円安

かなり昔から、新型インフルエンザなどのパンデミックや温暖化に伴う農業への影響などは言われ続け、何らかの事態が発生した場合の社会全体や自分らへの影響は、かなりなものになることは分かっていたはずです

ひとたび事態が発生・勃発してしまうと、全てが万全とはならないことも歴史が物語ってきました
そして、多くの人や事業がこれらの事態に巻き込まれ、その影響はしばらく続くことも容易に予想できたはずです


中小企業・小規模事業白書からも、特に、新型コロナウィルスの影響が深刻であることが記載されており、破たんする事業者数も右肩上がりです
ところが、全国の倒産件数は57年ぶりに低水準で推移しているとの記載もあります(下表参照)

出典:2022年版中小企業白書

予想・予測が及ばず、事前対策もほとんど無効で、事業への悪影響は甚大であるにもかかわらず何とか頑張っている事業者が相当数存在しているという結果です
その理由は、以下のような国策と企業努力が効果を発揮しているようです

  • 継続支援補助金や事業復活支援金などの資金繰り支援策

  • 中小企業庁が主導する事業見直し等に関する支援機関の活動

  • 事業の見直し(提供するサービス等の市場浸透、新商品開発、新市場開拓、多角化戦略、情報発信の強化)

そして、事業の見直しや再構築に取り組んでいる事業ほど、業績に効果が出てきているとのデータもあります

先ほどの危機事態の境である ”対策を講じる” ことに失敗しても、その後の ”被害を復旧させる” ことに集中して実行していることが効果を上げているわけです
この時点で、今ある危機を管理しようとし、実際に管理できる状況になっている企業が多く存在していることを白書は物語っています


■ 中小企業・小規模事業に求められること

多くの中小企業・小規模事業は、それら単体で成立していません
色々な形態・関係を持っており、お互いに相手を求めているはずです
さらに、社会全体としてのニーズもありますので、事業を継続するということは事業の命題です

災害等の事態があっても対策が講じられることで、被害を小さくできる可能性があります
また、対策が効果を出さなかったとしても、被害復旧・事業見直しに集中することで事業の継続が期待できます

そのためには、予測・予想のもとに自分らが行うべき対策、事態発生時の対処、被害発生後の復旧について考えを巡らせて準備することが必要です

防災計画やBCP(事業継続計画)を備えておくことは、事態等が発生しても戦略的に事業を復旧させて、継続させるためのツールであり、その時になっても、落ち着いて行動に移せるようにしておくために必要です

白書には、BCP(事業継続計画)に関する取り組み状況についても記載されています
BCPを策定している事業者は全体の半数程度しかいませんが、策定していると次のような効果があったとのデータがあります
※以下のパーセンテージは、策定している中小企業・小規模事業者の回答で、複数回答あり
※出典:中小企業・小規模事業者の動向(事業継続計画(BCP)の取組)(中小企業・小規模事業白書)

  • 従業員のリスクに対する意識が向上した:53.5%

  • 事業の優先順位が明確になった:33.4%

  • 業務の定型化・マニュアル化が進んだ:30.6%

  • 取引先からの信頼度が高まった:24.7%

  • 業務の改善・効率化につながった:24.1%

危機となり得る事態等に対する備えと構えを具体的にしたものがBCPなどですが、策定する効果は必ず事業にプラスになっています
現在の事業運営も大変重要ですが、現在のような複数事態・事象にも耐えうる体力・態勢を作り上げることも事業に求められています


■ まとめ

  • 危機管理は日常生活でも行っているものであるが、事業が成り立たなくなるほどの危機とは、次のような状況にあると陥る

    • 発生する事態等の規模に応じた又はそれを超えた対策が講じられていない

    • 被害が出ても復旧できない

    • 予測やイメージを持って実行していない

  • 危機事態の境界である ”対策を講じる” ことに失敗しても、その後の ”被害を復旧させる” ことに集中して実行できれば効果が期待できる

  • どんな事業にも事業間ニーズ・社会ニーズがあり、事業の継続は命題
    予測・予想のもとに自分らが行うべき対策や対処、被害復旧について考えを巡らせて準備することが必要

  • BCP(事業継続計画)を策定する効果は必ず事業にプラスになり、策定して運用することが求められている

日頃の事業の運営・経営や細かな業務の中でも大小さまざまな事象が発生していますが、過去の経験則やノウハウがあるから、先を予測して事象等を管理できているから大惨事になっていないだけです

大難を小難、小難を無難にする” という構えと備えが、現在も今後の企業や事業者が持つべき事業資産と考えていただきたいものです


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?