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昨今の小麦事情から

5月18日のニュースで、自民党が「国内小麦の生産強化」を政府に提言するとの話が出ました
海外の小麦生産が不調であること、新型コロナウィルスの影響で海上運賃が高騰していること、小麦生産国のウクライナの事情があるため、日本が輸入できる小麦が品薄・高騰となっているのが背景です

政界情勢の変化が食料に直接影響するという現実を見て、国内自給率を向上させることを提言したというものです
”今さらかよ” と思うところもありますが、今までの ”漠然とした危機感” が ”明確で現実の危機” となったという話です

漠然であっても危機感は持っていたのに、その危機が現実となった時に対応できないのはなぜでしょう?
そこには、現実的な事情と心理的な事情が深く絡んでいそうです

今回は、この小麦事情から得られる教訓を事業の運営・経営に反映させようという話です

■ 危機感があった小麦事情

事業継続力の話の前に少しだけ、小麦事情に関わる政治的背景と心理的要因を説明します

日本は、昔から小麦を輸入に頼っていたわけではありません
昭和5年(1930年)から15年(1940年)ころまでは、国内自給率が100%、輸出もしていた時期もあったくらいの小麦生産国でした
しかし、太平洋戦争の影響、お米と比較して収益性が低いのと、保存が容易でないことから、昭和48年(1973年)には自給率4%まで落ち込むほどに生産されなくなりました

引用:農林水産省資料

ですが、国内消費は相当にあることから、輸入に頼ることにになるのですが、ここに政府が介入してきます
理由は、お米と同様に重要な食料資源であることから、海外の生産国の動向などによって支障をきたすことがないようにするため、政府が海外から小麦を買い付けて、輸入したものをメーカーに販売するという政策をとるようになりました

引用:農林水産省資料

食料資源供給の多角化によるリスク分散、貿易の円滑化などの政策的な考えがあっての流れであったようです

しかし、国内自給率が15%、輸入に頼らざるを得ない小麦事情に ”何かあったら、小麦がなくなる” という警戒感もありました
現に、過去にもオイルショックや世界的不作などで小麦の相場が変動し、その影響が国内の小麦製品に波及したこともありました

この記事を書いている現在、国際的な小麦事情の変化とその要因となる事情が複雑に絡んでいることで、品薄・高騰という状況になっており、小麦製品及びその代替製品の価格が急上昇しています

小麦事情に何かあれば、国内の食糧情勢に大きく影響することは分かっていて、それが現実となっているのが現在です
そして、国内小麦の生産強化を政府に提言するという動きへとなっています


■ 分かっていても・・・

約10年前の東日本大震災も、それ以前から地震による大きな津波被害が発生する可能性があることが言われ続けていました
大震災後、古人が作った警鐘の岩の存在や地方伝承の話をテレビ等で全国に紹介していましたが、震災前はそれほど大きく取り上げることはなかったと思います

「あ~あ、やっぱりな~」、「そうなるって言われていたよね」、「今さらかよ」

東日本大震災も小麦事情も同じような言葉が交わされています
危機感はあったけど、その危機が現実となった時に無力だったという歴史が繰り返されているのです

なぜ分かっていた危機に無力だったのか、また、なぜ危機が現実となった時に対応できないのでしょうか
その背景には、次のような要因があるようです

  • 人間の認知バイアスが影響する
    ・不明確・不確実は過小評価され、明確・確定的は過大評価される
    ・権威のある人や専門家の言動は確定的と思い込む
    ・注目度が小さい事象よりも大きな事象が優先される

  • 現実の事象の大きさや速さが予想・予測超える

  • 変化や動向が緩やかすぎて気が付かない

これらすべては、分かっているはずのことですが、自然とやり過ごしているのが現実かと思います
実際、これらに神経質になって暮らすことは、ほぼ不可能だろうと思います

ただ、”頭で分かっていても、何もしていないこともある” ということへの認識があるかないかが重要になります


■ リスク管理は事業継続に必要

一般的に ”リスク管理” という言葉があります
リスクとは、発生する事態・事象に対する次のことを総じて言います

  • 事態等が発生する可能性・確率

  • 事態等で受ける被害の可能性・確率

  • 被害とその影響の大きさの度合い

先ほどの小麦事情を例にすると・・・

  • 全世界的に小麦が不作や品薄で高騰する確率は低いと思われていましたが

  • ひとたび不作・品薄になると、国内の食料事情に影響する可能性は大で

  • その度合いは、予測する消費量と輸入量、影響がある期間から数値として表すことができます

このようにリスクと呼ばれる事態・事象を明確にし、講じられる事前対策や事後措置を確立するなどの活動を ”リスク管理” と言います

同じような言葉に ”危機管理” がありますが、リスク管理が事態等発生に伴う被害・影響のついての備えや構えを言うことにに対して、実際に被害・影響を受けた際の対処までも含めた備え・構えのことを危機管理と言われています

BCP(事業継続計画)は危機管理のための戦略を示したものですが、日ごろからの事業の運営・経営に関するリスク管理ができていなけば、災害等で被害などが生じた際に対処できません

”自分らの事業にかかわるリスクは何となく知っていても、何もしていない” ではリスクを管理しているとは言えません

日ごろの事業・業務を進めている中で、特別なことではなく自然と行っているリスク管理もあるかとは思いますが、機会を作って管理すべきリスクとは何か、そのリスクに対して何をするべきかなどを整理し、必要な備えと構えを見直すことが事業には必要なことです


■ まとめ

  • 事業にかかわるリスクは、分かっていても実際に何もしていないことがある

  • 危機管理のベースは日頃からのリスク管理

  • 機会を作ってリスクとは何か、そのために何をすべきかを整理する

今回は以上についての話でしたが、冒頭にありました小麦問題について最後に付け加えのお話をします

”今後の国内小麦の生産強化” は、リスク管理でしょうか、危機管理でしょうか

今から生産強化を始めても充足するのには時間と労力がかかりすぎますので、今現在の問題解決とはなりませんが、将来起こり得るリスクへの対策という意味でリスク管理と言えるでしょう

ただし、小麦の自給率低下が引き起こすリスクは昔から言われ続けていましたので、”何もしなかったリスクを今から管理しましょう” というリスク管理であり、現在は ”ただの提言” という段階です

もしも、ここ数カ月・数年で小麦の確保が絶望的となると、将来のリスクは管理できても、今ある危機は管理できないという致命的な状況にもなりかねません

これが人の命や事業の運営・経営であれば、今ある危機で絶命してしまったら、将来のリスク管理なんて何の役にも立たないことになります
リスク管理とは、平穏である・何もしなくていいときであるからこそ、やらなければならない活動なのです

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