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障害福祉サービス事業に空き家は使えるのか

空き家問題が年々深刻化している話をあちこちで聞きます
実際、無人の住居や使われていない店舗などをよく見かけます

国や自治体は色々な施策を打って、この問題を何とかしようとしています
今年度から罰則ありで義務化された、不動産の相続登記もそのひとつです
また、空き家の撤去や活用に対する支援制度なども展開されています

さて、障害福祉サービス事業を立ち上げる際は、物件が必要となります
運営しようとする事業に適した物件の確保は、以下の三択になります
・今ある建物を活用する
・新たに建築する
・新たに借りる

その中で、空き家を利活用できないかと考えることもあるでしょう
一般的に、空き家をリノベーションしてお店や民泊施設などを開いたという話は多くあります

障害福祉サービス事業も、その手で物件を確保できないだろうか
でも、なんだかハードルが高そうだ・・・と感じることもあるしょう

  • 相当の経費がかかるかも

  • 法令等の基準に適合しないこともあり得る

  • そもそも、空き屋物件というのはいかがなものだろう

そこで今回は、空き家の活用による事業物件の確保について考えてみます 


実際のところ、どうなの?

空き家を活用したグループホームや就労継続支援サービスは実際にあります
いくつものハードルがありそうですが、メリットもあるようです

以下に参考情報や実例が掲載されている資料やサイトを紹介します

実際、空き家活用ならではのハードルがあります

  • 障害者総合支援法、建築基準法や消防法、条例などの基準に適合させるための改修コストがかかる

  • 古い物件の場合、開設後の維持修繕コストがかさむこともある

  • そもそも、立地や利便性の面で空き家がそぐわないここともある

でも、空き家活用ならではのメリットもあります

  • 改修の方が新築よりもコストを抑えやすく、短期間で済む

  • 古い建材や間取りによる「馴染みやすさ・住みやすさ」が残っている

  • 空き家問題の解消、地域の過疎化や廃墟化の防止に役立つ

これらは一例ですが、その他にも事業内容とのマッチング(相性)によってもハードルだったり、メリットだったりします

例えば・・・

  • かつて食品製造業だった空き物件に、就労継続支援を開設する場合、建築基準法や消防法、食品衛生法などの基準をクリヤーしている可能性がある

  • 立地が悪くても、送迎サービスを展開・強調すれば運営できる
    また、通所系事業の場合は、送迎加算を付けることもできる

このように、事業の内容や運営要領と物件とのマッチングによって、一長一短は異なります
まずは、立ち上げようとする事業に対して空き家を活用するハードルとメリットを整理することが重要になります

 

空き家活用について整理してみる

空き家活用のハードルとメリットの整理は、順序立てて考えるようにします
この際、思考過程を文字や図表で表して整理するようにします

  1. 立ち上げる事業の種類、特性、必須とする事項などを具体的に列挙する

  2. 運営の方針や要領などのビジョンをできるだけ具体的に列挙する

  3. 事業に適した地域や立地、物件の種類や条件などを具体的に列挙する

  4. 以上の事項を整理して、空き家活用上のハードルとメリットを整理する

このように論理的に整理すると、漠然としていることがハッキリしてきます
また、論理的な整理を進めつつ、法令や条例、実例などの情報収集も並行して行うようにします

さて、このような論理的な整理の後、あらためて整理していただきたいことがあります

“利用者さんにとって適しているのか・利用者さんのためになるのか”

空き屋となれば、それなりに使われた物件となります
古い建材が使われ、古くさい間取りだったりもします
改修によって改善するのにも限界があるかもしれません
でも、利用者ニーズに沿うように物件の特徴を活かすこともできます

例えば、グループホームに古い物件を使う場合
・間取りや部屋の大きさなどを逆手に、アットホームな雰囲気を作る
・古い建材の暖かさを活かした内装に改修する ・・・などなど

空き屋だった住居や店舗だからこそ、利用者さんのためになる
利用者さんが、その物件で生活したい・仕事をしたいと思う

そんな環境を空き屋の活用で実現できるかを考えることが重要です
事業の目的は、利用者さんの日常生活や社会生活を支援することにありますから、利用者さんのことを中心に考えるべきでしょう


空き家活用の制度などを確認する

冒頭にお話ししたとおり、国や自治体が空き家問題の解消に向けて頑張っています
また、空き家活用サービスを展開している事業者や法人もあります

空き家を活用して事業を立ち上げる側にとっては、非常に助かります
使えそうな制度やサービスは、有効に活用するようにします
ただ、細部が自治体や事業者等でまちまちですので、事前の確認が必要です

制度やサービスの内容には、大きく二つあります
① 空き家を活用したい事業者と空き家物件をマッチングさせる支援
② 空き家を活用したい事業者に対する金銭的助成

① 事業と物件のマッチング

以下は、ネット検索すると上位に出てくる自治体制度の一例です

 また、マッチング・サービスを展開する事業者や法人もあります
(以下は、ほんの一例です)

  • 建設会社や不動産会社、不動産仲介業者など

  • NPO法人など
    空き家活用プロジェクト、空屋・空地管理センターなどなど

② 空き家を活用したい事業者に対する金銭的助成

主に、空き家の改修などに対する自治体の助成金制度などがあります
(自治体によって、制度の有無や内容に違いががあります)
以下は、東京都内の自治体の制度の一例です

これらの助成等を受けるには、自治体ごとに色々な要件があります
例えば・・・

  • 空き家の所有者や管理者、空き家を活用する法人等が自治体内に所在すること

  • 空き家の活用に必要な改修工事は、自治体内の登録施工業者が行うこと

  • 3年以上、地域活性化施設として使用されること ・・・などなど

また、次のようなことも確認する必要があります

  • 障害福祉サービス事業の立ち上げも対象となるのか

  • 助成を受けるに当たり、支出する改修費の下限額

  • 審査に係る期間や必要書類 ・・・などなど


空き家物件で気を付けること

空き家を活用して事業を立ち上げる際、少なくとも次の事項に気を付けなければなりません
これらをおろそかにすると、事業の立ち上げに失敗したり、立ち上げ後の運営に影響を及ぼすことがあります

① 防災や防犯に配慮する

空き家を探す際は、事業を安全に継続させることも考慮すべきです
特に、古い物件は災害に弱い傾向にありますので、防災について考える必要があります
また、犯罪が多い地域であれば、防犯についても考えなければなりません

物件周辺のハザードマップや過去の災害事例、犯罪の傾向や警察署の位置などを確認し、可能な限り危険を避ける・対策が講じられるような立地・物件を選択するようにします

もしも、防災・防犯リスクを承知の上で物件を決めるなら、以下の事項は必ず行うようにします

・災害対策計画や業務継続計画(BCP)、事故防止マニュアルなどの策定
・防犯設備の設置や防犯マニュアルの策定
・万が一に備えた態勢の整備や対策・対処に関する研修と訓練の実施

② 法令等に適合すること

事業に供する物件は、障害者総合支援法や関連法令等に規定される設備基準に適合していることが必須です

支援法等では、訪問系や相談支援系の事業よりも、日中活動系・就労系・居住系・障がい児通所系の事業の方が、基準が厳しく定まっています
また、建築基準法や消防法などの規定にも適合していることが必須・前提とされています

ちなみに、支援法等以外の法令等には、次のようなものがあります

  • 都市計画法と自治体ごとの都市計画
    市街化調整区域に指定されている地域では、新たな開発が制限されます
    空き家を改修して障害福祉サービス事業を開設することが制限されるかどうかの事前確認が必要です

  • 建築基準法と付随する法令等
    空き家を改修して活用する場合で、床面積の合計が200㎡を超えるときは、用途変更の申請が必要です。
    また、200㎡未満で申請が不要でも、建築基準法に適合している旨の書面(建築士が作成する適合状況報告書など)の提出が必要となります

  • 消防法と付随する法令等
    指定申請時に防火対象物使用開始届を消防署に提出しなければなりません
    開始届の提出に当たっては、消防署職員による消防設備等の設置状況などの現場確認を受ける必要があります
    もしも、消防設備が消防法や関連法令に適合していない場合は、開始届が受理されませんので、障害福祉サービス事業の指定申請ができません

  • 建物の基準や使用に関する条例等
    自治体によって、物件の建築・改修の基準やバリアフリー化などを条例で定めていることがあります

上記以外にも、関連するガイドラインや通達も存在することがあります
これらの存在と空き家活用に適用されるかなどを事前に確認し、適合するよう必要な改修などを行わなければなりません

③ 地域住民の理解を得ていること

住宅街で事業を立ち上げる際は、地域住民の理解が必要です
地域によっては、障害福祉サービス事業のことが分からず、不安や偏見があったりします
また、事業の開設に対して反対されてしまうこともあります

そのため、法人代表が先頭に立って、地域住民に対する説明会の開催などにより、事業の目的や理念、利用者の特性、日頃の人の出入りなどを丁寧に説明し、理解を得るようにします

地域住民との良好な関係づくりは、利用者さんの生活や社会とのかかわり方にも大きく影響しますので、常に丁寧・大切にすることが寛容です


まとめ:空き家は使えるのか

障害福祉サービス事業で空き家を活用する実例があります
また、空き家活用を支援・補助してくれる制度やサービスなどがあります
それらを鑑みれば、空き家を活用することは可能です

空き家を活用するのであれば、事業内容と空き家とのマッチング(相性)が重要になります

まずは、空き家活用でハードルとなる事項とメリットを論理的に整理します
そして、空き家活用がサービス利用者さんのためになるのかを考えます 
その上で、法令等の情報の収集と相性が合う物件の検索を進めます

更に、空き家物件は、少なくとも次の事項を気を付けなければなりません
これらを怠ると、事業の立ち上げの失敗や立ち上げ後の事業運営に影響を及ぼします
① 防災や防犯に配慮する
② 物件が法令等に適合すること
③ 地域住民の理解を得ていること

最後に “障害福祉サービス事業に空き家は使えるのか” の答えですが・・・
マッチング(相性)と取り組み方次第で十分に活用できる

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