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障害福祉サービス事業の業務継続計画(BCP)で問い合わせが多い3選

今年度からBCPが未策定の障害福祉サービス事業所は、報酬が減算となります
前回の報酬改定時は努力義務でしたが、今年度から完全義務化となりました

多くの事業所は、既に策定され、研修や訓練が行われているかと思います
でも、いまだに未策定、策定したけど見直し中という事業所が多くあります
また、策定や運用で迷っている・困っている方もまだまだ多いようです

そこで今回は、BCPに関して、問い合わせが多い3つを選んで紹介します
これから策定する、策定し直す、見直しを行うなどの参考となれば幸いです


その1
策定する意味が、やっぱり分からない

この質問、正直多いです
策定が義務化され、重要なことであるとの認識は十分に持たれています
でも、災害対策計画や消防計画、各種マニュアルもあるのに、なぜBCPが必要なのか?

そんな質問に対しては、まずは、このように対応しています

“既存の計画やマニュアル類だけでは、利用者さんを支え切れないからです”

災害対策などの計画書やマニュアル類は、備えや予防策、事態発生直後の対処要領しか示されていません
事態発生から数日後、数週間後、数か月後の対処や復旧については、ほとんど触れられていません

「そんな先のこと、その時にならないと分からないし、その時々で考える」

そのようなご意見・お考えがあり、それはそれで正論でしょう
しかし、今からでも分かっている・予測できることはあるはずです

例えば、大地震の発生後は、職員や利用者さんの死傷、施設や設備の損壊・損傷、ライフラインの長期中断・復旧の目処が立たないなどが予測できます
その結果、サービスを提供する職員がいない、利用者の居場所がない、電気も水道もないなんてことになります

更に、利用者さんに対してサービスを提供しなければ、無収入となります
たとえ、人的・物的被害がなかったとしても、長期無収入であれば、事業が破たんします

BCPは、利用者さんのため、どのように事業を存続させ、報酬を得るためのサービスの提供をし続けるかの "戦略" を取りまとめたものです
また、事業を指揮する管理者・法人代表などが不在となっても、残った職員だけでBCPで示す戦略を執行できる仕組みを示したものでもあります

なお、一般的にBCPは "事業継続計画" といいますが、厚生労働省では "業務継続計画" と呼んでいます
この名称の違いは、利用者さんのため・事業存続のために "重要業務を継続する"という意味合いが込められているところから来ています


その2
自然災害と感染症のBCPだけでいいのか

厚生労働省が示すところでは、そのとおりです
なお、今年度はBCPが未策定であっても、災害対策計画と感染対策マニュアル等があれば、報酬の減算は保留となります

しかし、BCP策定の本来目的からすれば、この2つだけに限定して策定することは不十分であり、不適切だと言えます
なぜなら、本当に困る事態とは、自然災害と感染症だけではないからです

グループホームを例にすると、利用者さんや職員の死傷、施設の損壊、ライフラインの長期中断によって、利用者さんが生活できなくなります

就労継続支援で物販を行っている場合は、仕入れの長期中断、お客さんの不存在(客足が途絶える)で、事業の運営・経営が成り立たなくなります

更に、全ての事業所共通で、報酬請求業務ができなければ、事業収入が途絶える事態となります

このように、事業の種類、提供するサービスの内容、それに必要な事業資産(人・物・お金・情報)の状況によって、非常事態の様相が全く異なります
また、社会全体が非常事態のケースもあれば、自分らの事業所だけが非常事態に陥っているケースもあり得ます

以上のことから、想定される事態の種類から考えるのではなく、利用者さんや事業運営が困る状況が何なのかから考えるべきです

そうなると、自然災害と感染症の2つに特化したBCPだけでは不十分
また、2つの事態だけに限定して策定することは不適切だと言えます

さて、そのような考え方で策定すると、何種類・何冊もBCPを策定しなけばならないのかと考えがちですが、そんな必要はありません

まずは、いくつもの困りごとを整理し、それぞれに対策と対処を整理します
その上で、困りごとが生起する事態を列挙してまとめる考え方をします

以下は、考えの整理についての参考です
グループホームにおける困りごとの一つを例にしています
※ここでは、簡潔に整理しています

【困りごと】
 長期間の停電
【起因する事態】
 地震、洪水、強風、火災、電源設備の故障、電力会社側の不具合
【事態の対処方針】
 ①人命の保護と救護を最優先
 ②サービス提供の継続(最低限でも居住、食事と給水、トイレの提供)
 ③報酬請求業務の継続
【優先する重要業務】
 施設の使用、食事の提供、衛生管理、サービス提供記録と報酬請求
【備えておく物品】
 ソーラーパネル、ポータブルバッテリー、カセットガス式発動発電機など
【自力で復旧させる目標の時期】
 応急復旧は1時間以内
 長期化を見込んだ仮復旧は7日以内
 なお、施設内の電源設備が損傷している場合は、修理を業者に依頼
 その際は、1ヶ月間の停電状態を予期した電源の確保と節電を行う

以上のほかにも困りごとがあり、それぞれに共通する内容があります
いくつもの困りごとが出そろったところで、事態別に整理したり、困りごと別に整理したりと、使いやすいように編集すれば、何冊ものBCPを作る必要はなくなります


その3
BCPの訓練とは、何をすればいいのか

訓練を行う理由は次の3つです
①知識でしかないことがらを活動することによって理解を深める
②普段は行わない・未経験の動作を行って、記憶・体験・経験しておく
③正しい動作ができるように慣れる・経験値を上げる

BCPの訓練では、①と②に重きを置きます
研修で教育されたBCPの存在や活用要領などを、訓練を通じて更に理解させます
また、消火訓練や避難訓練、利用者と職員との間の安否確認訓練など、非常時の対処要領を経験しておくことで、実際の非常時に動けるようにします

これらを踏まえ、BCPで示される事項のうち、必要と思われる訓練は次のとおりです
・緊急連絡や安否確認(電気通信機器が使えないことも考えた訓練など)
・職員の緊急参集(徒歩による参集訓練など)
・対策本部の立ち上げ(場所の選定、指定職員の参集、資器材の準備など)
・情報の収集と整理
・非常用資器材の使い方(作動不良時の対処などを含む)

BCPの訓練は、避難訓練や消火訓練、感染症対処や救急搬送などの訓練と共通する活動内容もあるので、1回の訓練で同時並行で行うことが効果的です
また、訓練の実施に係る負担軽減のため、一つの事象、一定の時間帯に限定した訓練を行うこともできます

なお、全ての訓練は、以下の事項を確実に行うようにします
①事前の計画立案(計画書の作成を含む)
②所要の連絡や準備
③実施中の安全管理
④実施後の総括(成果、改善点、参加者の意見などの取りまとめ)
⑤実施記録の作成と保管

これらは、訓練を効果的・安全に行うために必要なことで、次回以降の訓練やBCPなどの見直しに活用します
また、消防署等への訓練実施の事前通知や訓練の計画と記録の作成など、法令等で決まっている事項は確実に行います

加えて、BCPの訓練を計画して実行すること自体も知識と経験が必要ですので、何度も反復して行うことが重要です
また、障害福祉サービス事業という特性を鑑みれば、職員らだけでなく、利用者や地域住民などの協力も得て行うべきでしょう


最後に

業務継続計画(BCP)の問い合わせが多い3選
簡単な紹介と概要説明しかできませんでしたが、いかがだったでしょうか

BCPを策定して研修や訓練を行う意義は、最終的・究極的には、利用者さんの日常生活と社会生活を支えることにあります
そのためには、事業を存続させてサービスを提供し続けなければなりません
たとえ非常事態の発生で被害を受けたとしても、続けなければなりません

非常事態下では、つらく過酷な状況に追い込まれることが予測できます
でも、頼れるBCPがあれば、心強いことだろうとも想像できます
そういうことを考えつつ、平常時の今だからこそ、心の支えとなるようなBCPを作り、準備や対策を行うようにしていただきたいものです

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