”いざという時” とは、どんな時
業務マニュアルや手順書などの中で ”~という時” や ”〇〇の場合” という記述があります
ある条件に対して、取るべきアクションを事前に示しておくのがマニュアル等の基本です
BCPは、事態発生時の人命保護のほか、事業が被る被害の早期復旧と事業・業務の継続のために使われます
また、BCPで示す各種事項は、事業主だけでなく、従業員らも理解・利用できるように整備されています
ところが、いざ事態発生という時にBCPが使えなくなることがあります
BCPだけでなく、マニュアル等も同じように ”存在するだけ” のものとなることがあります
今回は、この ”いざという時” の考え方についてのお話です
■ BCPなどが使えなくなる
BCPやマニュアル等が使えなくなることがあります
理由は、”今が使うべき時” と認識できないからです
”そんなはずはない” と思われるかもしれませんが、あるある話なのです
地震災害の場合、大きな揺れで被害が発生していれば ”いざという時” が来たと認識できます
よって、BCPを発動し、それをもとに事業・業務の復旧と継続のための活動を開始することでしょう
一方、昨今の円安物価高は、突然勃発した事象ではありませんが、製造業や物販業にとっては災害級の事態となっています
しかし、円安物価高に備えた計画などは考えてもいなかったでしょうし、策定していても、いつ発動すべきかで迷ったはずです
いずれも事業に致命的なインパクトを与える事態であるのですが、ここにポイントがあります
どのような状況・状態をもって、事業の危機だと判断・宣言するのか
どのような条件をもって、対処計画を発動して活動を開始するのか
これらは、いわゆる ”トリガー条項” と呼ばれるものと同じ考え方です
あらかじめ決められていた一定の条件を満たした場合に発動される取り決めを言います
なお、発動することを、銃の引き金(トリガー)を引くという比喩的な言葉で表現しています
BCPなどが使えなくなる理由は、”今が使うべき時” と認識・判断する仕組みがないことにあります
引くべき時を定めていないトリガーは、いつまでたっても引かれることはありません
■ 仕組みづくり
事業の指揮者は、事業主または経営陣でしょう
指揮者がいなければ、オーケストラが演奏できないように、事業の舵切りもできなくなります
事業主らは、状況を判断し、何をするかを決心し、それを従業員などを指揮して事業を運営します
もしも、指揮の不在などで次のようなことがあれば、何も進まないことでしょう
状況を判断する手段と能力がない
何をするかの決心をする人物や権限がいない
それらを代理・同行する者・機能がない
いつ何時でもBCPなどが使えるようにするためには、上記のようなことがないようにしなければなりません
そこで必要なのが、事業にかかわる誰もが判断・決心して、行動に移せる ”仕組み” を作っておくことです
また、その仕組みは、いざという時にでも自動的に機能するように作られている必要があります
例えば・・・
事業主が不在の場合の代理・代行者の指定
もしものことを考え、代理・代行者の不在時は、セクションや部課等ごとの長にしておくなど地震発生直後、揺れの大きさ別に実施する事項を表にして掲示しておく
文字だけでなく、絵やグラフを用いて見やすい表にしておく施設外への人員避難の判断基準、避難先と経路を事務室のドア等に貼り付けておく
”空振りでもいいから、避難する” という決心ができるようにマニュアル化する職員と連絡がつかない場合を考えて、カード型の初動マニュアルを事前に配布しておく
地震・津波・洪水などの災害や交通手段の途絶などで区分した行動基準を示しておく周辺地域にも被害が出ている事態では、自分らの事業に関わり合いのあるところに連絡する規定と態勢を定める
介護・障害福祉事業所ならば、緊急連絡先名簿に従って役場担当部課や他事業所に被害等の状況や救援の要否などを連絡する
連絡する内容もリスト化・フォーマット化して何を・どの順番で話すべきかを明確にしておく
理想的には、”迷ったら、まずは○○する” というところまで網羅されていると良いでしょう
このように・・・
事前に行動基準を取り決め
その行動基準を誰もが見れるように整備し
行動基準に従って行動できる態勢を作る
・・・の3つのことが仕組みづくりです
■ ”いざ!” というトリガー
仕組みづくりとともに重要なのが、今現在が ”いざ!” というタイミングであるかを認識できるどうかです
”茹でカエル理論” をご存じでしょうか
カエルを、いきなり熱湯に入れるとビックリして逃げ出すが、最初は水に入れ、徐々に熱すると逃げ出すタイミングを失って、最後は死んでしまうというものです
(実際は、そんなことはないそうです)
ジワジワと迫ってくる危機が ”今そこにある危機” と認識できず、遅れを取ったという事象は世の中には多くあります
誰もが認識できるようなカタチで表面化・顕在化しない危機は、事業にとって最もやっかいなものです
以前からドアの建付けが悪く、気にはなっていたが、調べてみると地盤沈下で施設建物が傾いていた
長雨・大雨は気になっていたが、近所の人から近くの川が氾濫しそうだと聞いて、慌てて避難先を探す羽目になった
ジワジワと物価高となり、気が付くと経費がかさんで収益が危機状態
いずれも早期に察知できず、また、それを危機と認識できないことに問題があります
人は、五感で感じる危機には敏感ですが、頭の中で納得できないことを危機・危険とは感じにくいものです
そこで重要となるのが、自分らの危機とはどのようなことを言うのかを ”見えるようにしておく” ことです
そして、見える化したモノを常に監視する活動も必要となります
ドアの開け閉め動作の確認のほか、廊下にビー玉を置いて転がるかどうかを毎月1回の施設点検で確認する
雨が降り始めたら3時間ごとに、注意報や警報が出ていないかをネットで確認する手順を決めておく
許容できる支出額や収支率を決めておき、毎月の経費の推移を表計算でグラフ化して確認する
これらに共通することは・・・
事業の危機につながる要素を洗い出す
その要素を測定する手段を作り出す
測定手段の実行と確認の頻度・タイミングを定める
その要素が事業の危機となる ”点” を定める
受け身ではなく能動的・積極的に行う
このように、”何となく・感覚的に” ではなく、”数値化・実体化” することを重視します
各種事象が数値化・実体化されていれば、危機であるかどうかの判断ができ、次のアクションに移すことができます
ものごとの数値化・実体化は、”いざ!” というトリガーを引く仕組みづくりです
■ まとめ
”いざ鎌倉!” という言葉がありますが、これも、危機を危機と確信し、次のアクションにつなげるための言葉です
鎌倉幕府に一大事があれば “いざ鎌倉に馳せ参じよう” との坂東武士たちの心意気を表したものと言われています
被害は未然に回避し、危機に遭遇しても適切に対処したいと誰もが考えることです
心意気はあっても、一大事であることを認識できなければ何にもなりません
そのため、鎌倉時代以前から武士たちは、独自の情報収集網を機能させ、何らかの兆候があるかどうかを精査し続けてきました
科学技術力・情報収集伝達力が発達した現在も、やるべきことは同じです
事業にかかわる誰もが判断・決心して、行動に移せる ”仕組み” を作っておく
また、その仕組みは、いざという時にでも自動的に機能するように作られていること事業の危機となる要素を ”数値化・実体化” し、定期的に確認する
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