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BCPは使えない?約4割が役に立たなかった

令和2年に厚生労働省から社会福祉施設等におけるBCPの有用性に関する調査研究結果の記事が出ています
その結果記事には、全国の社会福祉施設等7,986施設のうち、災害等の被災時にBCPが ”ほとんど役に立たなかった” 、”まったく役に立たなかった” と回答した施設等が約42%もあったそうです
 参考資料:社会福祉施設等におけるBCPの有用性に関する調査研究事業(PDF)

もちろん、約58%の施設等は ”役に立った” と回答しています

いざという時の事業継続戦略を取りまとめたBCPは、本当に4割の割合で使いものにならないのでしょうか
今回は、使えないBCPについて解説します


■ 使えるようにしていないBCP

同調査結果には、BCPが役に立たなかった理由も記載されています

  • 内容があいまいだった(34.1%)

  • 想定以上の被害だった(9.8%)

  • 実現性に欠ける内容だった(9.8%)

そして、その他の理由(53.7%)の主なものは以下のとおりです

  • 当時はBCPを策定していなかったため

  • マニュアル等を見る余裕がない(状況に応じて判断していくため)

  • 大きな災害ではなかったため(BCP発動に至らなかった)

  • 災害による被害が出なかったため(BCP発動に至らなかった)

整理すると、次のようなことがBCPが役に立たなかった原因になるかと思います

  • そもそもBCPが未策定(必要性を感じていなかったか、感じていても着手できなかった)

  • 想定規模などの見積もり・検証を誤った・不十分

  • 達成すべき目的・目標が実現可能かどうかの検討・検証が行われていない・不十分

  • BCPに関する職場全員の理解や活用要領が浸透しきれていない

原因を見れば、役に立たなかったことは起こるべきして起こったといわざるを得ません
”BCPは使えない?” という疑問・問いの結論は
”使えるようにしていない” が答えとなります

そもそも ”使う理由が分からない” 、”本当に使えるものなのか?” という思いがあるから ”使えないBCP” になっているのも現実かと思われます


■ 使えるBCPは事業戦略の一部

BCPを策定し、運用している中小企業の中にも同じ状況が潜在しているものと思われます
事業継続計画や事業継続力強化計画、BCPという言葉が何か特別にやらなくてはならない・特別に扱わなければならない分野という考えになってはいないでしょうか

ですが、日ごろの事業運営・経営とBCPは根本的なところで全く同じで、特別扱いしすぎないようにしなければなりません

  • 顧客ニーズや社会ニーズに答える

  • 常に変化する事業を取り巻く状況や環境に対応して、適応する

  • 売り手、買い手、売り物、売り場、売値の概念は変わらない

  • 事業を運営・経営し続ける(事業のため、顧客のため、従業員のため、自分のため)

日ごろの事業や業務は日々変化があります
季節や天候などの変化は当たり前にあるため、事業を運営・経営する戦略に織り込み済みです
物価や消費傾向などの経済動向が大きく変動した場合、過去の経験や対策案が講じられていなければ慌てますが、経験や実績があれば何とかやり繰りできるでしょう

それらに対し、自分らが遭遇することが稀である災害、事故、事件に関しては、経験や実績がないことで、被害の規模や事業資産の枯渇化などを想像し切らないため、事前対策が講じられなかったり・できなかったりします
その結果、災害等の非常事態に遭遇してから臨機に対応しようとしますが、予想・予測を超えた状況では臨機対応にも限界が来ます
経済動向の大きな変化に対応できていない事業にとっては、それも非常事態化していますので、結末も同じになります

このような特性を持つ事態発生を自分らの日常の事業戦略に織り込むには、相当の検討と検証の労力が必要ですので、なかなか難しいかと思われます
その結果として、BCPを特別扱いしすぎるようになり、日常から遠ざけがちになっているのかもしれません

しかし、日ごろの事業運営・経営とBCPは根本的なところで全く同じなのですから、使えるBCPは、日ごろの事業に織り込みづらい事項に特化した事業計画書として、日ごろの事業戦略の一部となってなければなりません


■ 使えるBCPは活動した結果による

加えて、BCPを策定して計画書として保管しているだけでは、使いものになりません

  • BCPを使う理由、必要性、使い方などを事業にかかわる全員が理解していないと、いざという時にBCPの存在を思い出しません

  • 理解していたとしても、実際にどこに保管してあるのか、どのように参照・活用したらよいのかは、実際に使ってみないと定着しません

  • 実際に使ってみたら問題があったとか、BCPで示されていない事象や事項があったなど、改善しなくてはならないことが見えてきます

  • 何よりも、日ごろの事業運営・経営に変化があり、事業戦略や業務処理手順が変われば、BCPで示した内容も変更しなければならなくなるはずです

このように、使えるBCPにするためには、日ごろの事業とともに ”教えて、使って、直して、教えて、また使う” というサイクルの活動が必要です


■ 役に立った対策

調査研究結果でBCPが「役に立った」と回答した施設等で、役に立った対策の主だったものを挙げてみます
(パーセンテージは、役に立ったと回答した中で占める割合(重複回答あり))

  • 電気が止まった場合の対策(71.4%)

  • 職員との連絡(65.1%)

  • 地震が発生した場合の職員の参集ルール(63.5%)

  • 備蓄(58.7%)

  • 電気が止まった場合の対策(57.1%)

  • 利用者家族との連絡(52.4%)

  • 災害に備えた訓練(49.2%)

  • トイレが使えなくなった場合の対策(49.2%)

  • ガスが止まった場合の対策(44.4%)

このように、非常時に役立つものとは、失うと困る・慌てるものであり、失う可能性が極めて高いものといえます
特に、インフラ、備蓄、連絡(体制と手段)は、重要であるにもかかわらず失いやすいので、事前の対策が重要であることは十分に理解できます

加えて、日ごろからのルール決めと訓練が役に立ったとの回答から、行動基準が日ごろから定着されていて、非常事態下で発揮できるレベルにあったことが伺えます

このように、”失うと困るものに対する備え” と ”いつでも行動に移せる構え” の両者が整っていることが大切であり、それらをBCPで取り決めて、使い続けることで ”使えるBCP” となります


■ まとめ

  • ”BCPは使えない?” の結論は
    ”使えるようにしていない” が答え

  • 日ごろの事業運営・経営とBCPは根本的なところで全く同じ
    使えるBCPとは、日ごろの事業戦略の一部

  • 使えるBCPとするためには
    日ごろの事業とともに ”教えて、使って、直して、教えて、また使う” という活動が必要

  • ”失うと困るものに対する備え” と ”いつでも行動に移せる構え” の両者が整っていること
    BCPで ”備え” と ”構え” を取り決めておく

これまでにBCPが使える存在であるかどうかの話を解説しましたが、別の言い方で解説を締めくくりたいと思います

事業もBCPも我が子と同様に ”育てる” ことが大切です

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