訪問系事業のリスク
前の記事で取り上げました話題の続きです
今年の春にNTTデータ経営研究所が公表した調査報告書に注目すべき内容がありました
訪問介護と訪問看護、居宅介護支援の事業者のBCPの策定状況が低迷(調査報告書の44、71頁)
参考資料:感染症対策や業務継続に向けた事業者の取組等に係る調査研究事業
施設を構える本部事業に訪問系や居宅系事業が併設されているなどの理由があるのでしょう
とは言っても、2年後には事業者ごとにBCPの策定と運用が義務化となります
法的に策定も教育・訓練も行わなければならないことになります
何よりも、事業がダメージを受けても社会福祉事業は、利用者や社会のニーズに応える必要があります
災害などの事態にあっても、事業を継続させることは事業主・経営陣の使命です
ということで、今回は、訪問系・居宅系事業のリスクについて解説します
■ リスクの特徴
介護事業・障害福祉事業は、日ごろから利用者ニーズ・社会ニーズが相当に高い事業です
そのような事業には、他の業種とは異なるリスクを持っています
特に、災害などの広域に被害が出るような事態では、リスクの拡大が予期されます
このリスクですが、マイナス面だけでなく、見方次第でプラス面も持ち合わせています
● 分散というリスク
訪問系・居宅系事業は、利用者のもとにサービスを届ける事業です
施設系事業のように、拠点施設に利用者も従業員も集まる事業とは形態が異なります
施設系事業における防災は、利用者と従業員の保護、施設や設備の維持補修が主体となります
訪問系・居宅系事業も同様ではありますが、全てが同じ場所に所在しないという特徴があります
防災の観点では、人や物を一か所に集中させずに分散させてリスク管理する概念があります
例えば、防災用備蓄は施設外の倉庫に保管する、事業用データはクラウドにバックアップ保存するなどです
訪問系・居宅系事業も防災の観点でのリスク管理は同様なのですが、事業継続という観点では異なることがあります
利用者は常に拠点事務所以外の場所に所在している
従業員も拠点事務所に所在していないことが多い
必要な資器材は拠点事務所で保管されているか、従業員が持ち出している
このように、従業員や利用者が分散されていることはマイナス面もあるのですが、プラスとなることもあります
マイナス面
通信手段がなければ、事業主、従業員、利用者の相互の連絡・情報共有が困難となる
拠点事務所等に従業員が集まるのに時間がかかる
災害等発生時の対処要領や避難経路等が訪問先・移動先ごとに異なる
災害だけでなく、台風や大雪、交通障害によってもサービス提供ができなくなる
プラス面
一か所に人と物が集中していないので、被害の分散回避が期待できる
事務所業務が継続できるのなら、拠点を他の場所に移動できる
感染症のクラスター感染の可能性が比較的低い・防止しやすい
マイナス面の課題を克服し、プラス面を有効活用できれば、事業を継続できることでしょう
● ニーズというリスク
災害等の非常時は、介護事業・障害福祉事業に対する利用者ニーズ・社会ニーズが高まることが予期されます
それゆえに、介護事業者・障害福祉事業者に防災関連計画やBCPの策定と運用が求められているのです
また、ニーズが高まるだけでなく、ニーズの内容が変化することも考えられます
通所系サービス利用者が、自宅や避難先で支援を求める
施設系事業所に対し、他の事業所利用者の受け入れを求められる
訪問系・居宅系サービス利用者から、自宅などいつもの場所以外から支援を求める
ニーズの高まりや変更に対して、施設の許容数、従業員や資器材の数量、移動手段が足りなければ対応することはできません
介護事業・障害福祉事業に共通して、この ”ニーズ” と ”対応力の限界” のバランスがリスクというわけです
さて、どんな時でも自分らの事業にニーズがあるということは、経営という観点では、かなりの強みです
ニーズがあるのですから、対応力の限界という課題を、どう克服するかという戦略が必要となります
■ BCP策定のポイント
訪問系・居宅系事業にあっては、リスクと課題をどのように捉えて、どのような戦略を立てるのかということになります
以下は、何を考える必要があるかを例示的に挙げてみます
分散というリスクに対して
利用者や従業員との連絡等
連絡先と連絡手段
安否確認の要領と内容
従業員に対する指示内容
利用者とその家族等に対する連絡内容
従業員の行動基準
訪問中の行動及び利用者の避難支援
移動中の行動
帰宅間の行動
従業員の出勤・参集の基準
参集・出勤させる条件・させない条件
参集の範囲
資器材の現況
持ち出し中・保管中の資器材の種類と数量の把握
拠点事務所の運用
事務所の施設・設備の状況確認要領
事務所機能を移設する条件
移設先候補の優先順位、必要とする備品等も含む
ニーズというリスクに対して
提供する業務
BCPで示す重要業務に同じ業務を中断・制限する条件と許容範囲
実働従業員数に対する対応可能ニーズ数
対応可能地域・範囲
ニーズと従業員個々の事情による対応要領
既存利用者からの要望変更
新規の利用希望者
他事業所等からの要請
勤務態勢
従業員個々が抱える事情と対応可能ニーズ数を考慮他事業所等との連携要領
このように項目立てて、それぞれについての基準等を設定するようにします
これだけでも ”考えることが多いな~” と思われるかもしれません
ですが、日ごろの業務管理を基に、非常事態下でやるコトを加えた内容となっています
要は、”できるコトの限界” と ”できるコトの範囲内でやるコトを定めておく” というだけです
非常事態下では混乱し、迷うコトが多いので、決めておけるコトを事前に決めておくのです
■ リスク管理という活動
訪問系・居宅系事業独特のリスクを挙げて解説していますが、リスクはこれだけではありません
非常事態下で事業に影響を与える事項は、良くても悪くてもリスクとなります
また、それらのリスクとともに、次のようなことも同時に考えるようにします
業務の中断が事業に与える影響
許容できる業務中断の時間・期間
目標復旧時間
事業にどのようなリスクがあるかを分析し、事業への影響、復旧目標の設定を総合的に整理する活動を行います
この活動がリスク管理と呼ばれるものです
事業それぞれに特性・特徴がありますから、同じようなリスクも、全く異なるリスクも存在します
また、平時のリスクと非常事態時のリスクも同様です
自分らの事業の特性・特徴から、リスクを洗い出して管理する活動が常に必要なのです
■ まとめ
訪問系・居宅系事業のリスクに関してのお話でした
先述したリスクやBCP策定のポイントは、ほんの一例です
自分らの事業の特性・特徴を踏まてリスクを管理し、事業を継続するための戦略を立てるようにしてください
リスクは、マイナス面とプラス面の両面がある
特徴的なリスクとして
分散というリスク
ニーズというリスク
リスクと課題を分析して戦略を立てる
自分らの事業の特性・特徴から、リスク管理する活動が常に必要
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