プロジェクトを破綻させるディレクション

フリーランスのデザイナーになって早いもので5年が過ぎた。

これまで様々な方にお世話になってきた。
ひとつとして同じ案件は無く、毎回試行錯誤の連続。

孔子によれば迷うことのない年齢になってきた私であるが、
現実はまだまだ迷走してばかり。

表題について書いてみようと思ったきっかけは、過去の実体験から得られる教訓をまとめておきたかったから。人のふり見て我がふり直せ。
「プロジェクトを破綻させないディレクター」になるためにも、まずは手始めに「破綻させる」ディレクターについて書いてみることにした。

プロジェクトを破綻させるディレクターをズバリ一言で言うとすれば「Just 連絡係」
つまり、ただの連絡係。

誤解してはいけないが、連絡をすることは大変重要な仕事である。
「報連相」は仕事の基本だと社会人1年生は必ず教えられる。
状況が刻々と変わる中、情報の鮮度は新鮮でなければならないし、情報を正確に伝達することは社会人としての立派なスキルである。

私は、ウェブディレクターを目指すにあたり、「ディレクターは船頭だ」と習った。これほど分かりやすい例えは、今のところ他に見当たらない。

ディレクターという役割は、その仕事のまとめ役であるから、知識の豊富な人が担当することがもっとも当然と考える。
だとすれば、社会人1年生が習うことだけでは役不足になることは火を見るよりも明らかだ。

しかしながら、熟練ディレクターが存在するように初心者ディレクターがいることもまた必然である。

プロジェクトを破綻させるディレクターは、ただのご意見伺いになりがち。
八方美人、風見鶏、日和見主義ともいうかな。
ディスカッションする力を備えていない。
すべての人の発言に「そうですね」「確かに」「確認します」だけを連発するということは、一見とても迅速に連絡していて良いことのように見えてしまうが、実際は、自分以外の誰かが答えを見つけてくれるまで、ひたすら連絡のみを続けることを繰り返しているに過ぎない。

「あちらがこう言っていました、そちらはどう思われますか?」
→どう思うかを検討する「軸」を同時に提示しなければどうにも思うことはできません。

「あちらがこう言っていましたので、お願いできますか?」
→あなたはそれでいいと思っていますか?やった後にやっぱり違いました、とか言いませんか?

これはデザイン関係の仕事に就いて思ったことだが、仕事相手が社内に限定されず様々な人である場合、「暗黙の了解」で片付けられることがとても少ない。そしてその理由は明快である。

1つの会社に長年在籍していると、(暗黙のルールを含む)会社のルールは憲法をも上回るほどの力を持って社員の生き方や思考の仕方に深く浸透する。そういった同じルールを持つ人同士が話をする場合、全てを語らなくても伝わる暗黙知が増えてくる。会話は徐々に効率化され、少ない言葉で多くの情報が伝達できるようになってくる。

クライアントとデザイナーは違う会社の人である = 暗黙知は伝わらない

できる限りの言葉を尽くして、伝える努力をしなくてはならないということ。そして、言い方を変えたりして本当に同じ思考をしているかを確認することを怠ってはいけないということ。

プロジェクトを破綻させるディレクションは、
本来、話の交通整理をするべき人が、逆に交通渋滞を引き起こす
ことから始まる。

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