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【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第4話

ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまで     ダンス劇小説を毎日連載!
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で、
熊谷が60分の1人小説ダンス劇として上演致します。

第4話「いこじな男」作.熊谷拓明

こんなにも優雅なオルゴール調に編曲されては、桜井さんも黙っちゃいないだろう。

やすらぎよりも、なんとも納得のいかない「シソーゲーム」に気が向いてしまって、肝心の足の裏に意識が向かない。

「少し、少々痛いですか?」優しい声で、一重の彼は中国語訛りの日本語でいつも聞いてくれる。

ちから加減も、技術も僕にとっては完璧である。

月に1度のペースで通う近所のフットマッサージ店は、
商店街の路面に面して、ガラス戸をいつも10センチほど開けながら、5つのスペースを分ける水色のカーテンを外の風でなびかせている。

初めて彼に会ったのは昨年の夏だった。
夏が苦手な僕は、暑さでむくんだ足を、さらに薄手のサンダルで無防備にアスファルトと対峙させながら、トイレットペーパーを買うためにドラッグストアへ向かう途中。
10センチの隙間からのぞく、外の風でなびくこの水色のカーテンに誘われるように、戸を開けた。

火照った僕の足裏にクリームを付けてグングン押しながら、
隣で施術中の同僚とずっと小声で話している。聞こえたところで中国語のわからない僕は、先程履き替えるように渡されたハーフパンツの着こなしが間違っているのか、なんど撫でても直らなかったつむじの寝癖がおかしいのか、昨日買い替えた眼鏡がイマイチ似合わないのか。などと自分に原因を探しながらも、程よい痛さに眠けを覚えていた。

少し軽さを得た両足に運ばれて家に帰り、テレビをつけると、足裏と聴覚を刺激されたせいか便意をおぼえ、
トイレに入り、頼りない量のトイレットペーパーを見て、やっとトイレットペーパーを買い忘れた事に気が付く。
「あー。」と言ってみたが、近所のドラッグストアも終わっている。
今から急にとてつもない食中りに襲われて、トイレにこもるような事がない限り、明日で充分だったので。
見るでもないテレビを眺めながら、冷蔵庫の隅にいたいつかの缶チューハイを開けてみる。
夏、クーラの効いた部屋、テレビを眺めて缶チューハイ。

あとは何をしたらそれっぽいのだろうか、枝豆、本を読む、テレビを消して音楽を聴く、冷奴。

結局の所、夏らしい事、秋らしい事、春っぽい事、楽しいっぽい事がわからないし、本当のところは興味がない。

結局缶チューハイも全て飲み終わる前に飽きてしまい、首が垂直人間になりそうなソファーで横になって、いまだ賑々しく盛り上がるテレビを横目で眺めてみる。

小学生の頃、まわりの小学生は少年ジャンプを読み始め、
それをわざわざ学校に持って来て先生に怒られる男子を、女子は妙にかっこいい男を見るかのような目で見る。
少年ジャンプを読まず、家で母親の紫色のカーディガンを羽織って、細川たかしの「北酒場」を歌いながら、不思議な舞を夜な夜な家族に披露する僕は、もう一生あの女子達にかっこいいとは思ってもらえない。
そう思って街行く大人の女性をキョロキョロみながら、ランドセルを背負って、運命の出会いを探した男の子の行く末は、首直角人間だったのだ。

テレビの音が急に大きくなり、急に首が直角なまま、全ての体が動かなくなった。しだいに耳がキンキン鳴り始め、いよいよソファーの下に投げ出していた右腕と、腹のあたりに無防備に放り投げていた左腕を動かして、耳を塞ごうとするが、どちらの腕も動かない。「あれ?」と言いたいが声も全く出ない。
目の玉だけをかろうじて動かして、テレビの横に立て掛けられた時計をなんとか見る、焦点が合うのを待ってやっと、
24時38分だと知る。
なぜそんな正確に時間を知る必要があったのか、今も定かではないが。
とにかく24時38分、僕は金縛りにあったらしい。

夕方に強烈に刺激された、足の筋肉達は活力を取り戻し、
マッサージと缶チューハイで完全に電源を落としたがる脳ミソとの折り合いがつかなかったのが原因であろう。

それからは月に1度、彼に足を圧してもらった夜は必ず金縛りにあう。

金縛りにあう日イコール、彼に足を圧してもらった日。
足を圧してもらう事イコール金縛りになる日なのだ。

いつかこの水色のカーテンに囲まれた中で、金縛りにあう日は来るのだろか、その時この彼は中国で隣の同僚になんて伝えるのだろうか…

生きる事は心配を増やす事、生ている限りは心配事は尽きない。
今日僕の生きている証は、ここで金縛りにあったら彼はどうするのか。という小さな心配事であったことに、そっと感謝をして、ハーフパンツを脱ぎ、家から履いてきたジーンズに足を通す、ポケットに入っていた家の鍵が、太ももにささって少し痛い。

痛いのも生きている証。
さぁ、今日はどんな金縛りにあうだろうか。

おわり。

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最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。

期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。

必ず劇場でお会いしましょう!

踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明

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新作ダンス劇
「舐める、床。」
2020年12月10日〜13日@あうるすぽっと
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