【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第23話

ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまで     ダンス劇小説を毎日連載！
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で
熊谷が６０分の１人小説ダンス劇として上演致します。

第23話「おってな男」作．熊谷拓明

足元の窓から子供が２人、朝から高らかに歌っている。
いつからこの声をうるさいと感じなくなった、歳をとったと言ってすませれば簡単かもしれないが、僕ぐらいの歳の男が、子供がうるさいという苦情をぶちまけに、近所の幼稚園に駆け寄り、四角く囲まれた彼らの城で、パトレンジャーになりきっている園児達を怒鳴りつけたとは先月の事だったか。

足元の窓から聞こえている子供の声が、パトレンジャーではなく、どぶろっくの、金の斧と銀の斧の歌ネタだったからうるさく思わないのか。

春が急に夏を呼んだような今朝の気候は、日頃カレンダーを見ずに暮らす僕にとって、ほんとに夏がやって来たのではないかと、朝から耳の奥がグッと鳴る程度の衝撃があった。

体感より２ヶ月も早く世間が進んでいるのは、流石に気が引けるのだ。しかし現実はそうではなく、だいたい想像通りの５月である。朝起きたら７月になっていたわけではないので、勝手に２ヶ月得をした朝は、子供のどぶろっくも、優しく僕を足元から包み込み、脇腹の方の窓から聞こえる、奥様達の朝の情報交換は、優雅な歌声のように耳に届いた。

今日の熱に包まれて、世の中が数ヶ月勘違いしたような1日の始まりは、もしかしたらこのまま数時間でほんとに７月になるかのように現実的な光景であり、また数日後にいつもの５月が戻って来るのが少し残念な気がした。

むかーし、むかし、女性の気性は山の天候のようだと言った人がいるが、女性に限った事ではなく、老若男女、その日の気候やその時の雰囲気に支配されて生きているのだろう。
しかし、どぶろっくを歌う子供や、情報会議中の奥様達ほど敏感に変化を感じられないの僕は、少し人間から遠ざかるってしまったようで、寂しいという思いすら、湧いてすぐに何処かへ消え行くのだった。

明日は人に戻ろう。
今日はこのまま外の出来事を、外の出来事のままにしておこう。昨日はどうだった？
疲れたのか自分？いや、そんなはずはない、おそらく今日と同じ少し人間から遠ざかった1日を過ごしていたんだから。

翌日、窓に向けられていた足を床につけ、脇腹を部屋に立て、顔を洗うと、右の頬やら、左の頬がぼこぼこ動く顔を見ながら歯を磨き、着替えてもさほどさっきまでと変わらないようなTシャツを着て、昨日から勘違いを始めた外へ出た。

7月はすでに何処かへ出かけ、代わりに帰ってきた５月が、半袖Tシャツの袖からじゃれてきて、僕の乳首を緊張させた。

昨日の会議は終わったのか、彼女達の声はなく、今日は家で遊ぶ日なのか、どぶろっくも姿がない。

自分で少し口づさもうかと、頭の上から歌が降りて、鼻の奥を通過したあたりで、それが何処かへなくなった。

そのかわり、「なんだ雨も降るのか」

とだけ言って少し静かな路地を歩いた。

５月をまだ生きる。
それが健全である。

おわり。

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最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。

期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。

必ず劇場でお会いしましょう！

踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明

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■新作ダンス劇
「舐める、床。」
2020年12月10日〜13日@あうるすぽっと
詳細後日発表

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