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【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第22話

ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまで     ダンス劇小説を毎日連載!
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で
熊谷が60分の1人小説ダンス劇として上演致します。

第22話「たかがな男」作.熊谷拓明

この地に越して来た当初から、彼は所謂幸せそうであった。

家業なのか、勤め先なのか、レンガ色の四角い2階建てのこじんまりとした民家の1階部分から、緑の日除けテントを突き出した下で、彼は毎日野菜を売る。

トマトはいつも声を出して笑い、アスパラはいつも機嫌がよく、玉葱は元気な歌を口ずさみ、白菜は自信に満ちていた。

みんな彼のことが好きで、彼はもちろんみんなを愛していた。

時折、取引先に彼らを配達する為、大きな台車に彼らが詰まった大きなダンボールを乗せ、商店街を押し進む。
きゅうりにパチンコ屋の説明をしてやり、茄子に洋服屋の店主を紹介して、ブロッコリーに惣菜屋の匂いをかがせ、アボガドと帰宅中の小学生のリコーダーを楽しんだ。

振動に弱い彼らの為に、まるで数ミリ浮き上がるリニアモーターカーのような優しさで、彼の台車はスルスル進む。

その日も、いつものような優しさで彼らを送り届けた男は、
誰も乗らない台車をガラガラ鳴らして店に戻った。

留守をみていたおそらく彼の母は、カリフラワーのように髪をフワフワさせながら、やはり茗荷や、大葉と楽しそうに日除けテントの下に立っていた。

彼が戻ると、二人は忙しそうな笑顔を交わし、店の向かいの小さなシャッターを開けると、店中の仲間たちを小さな倉庫に運び入れた、夕日が1日の仕事を終える頃、二人の店は空っぽになった。

レンガ色の2階建ては半日で姿を消し、翌日には大人たちが沢山の杭を打ち込み、その翌日には白いネットで覆われ。向かいの小さなシャッターの中では、さらに密度を増した彼の幸せが、古い倉庫に絵画が飾られたような、明るい違和感を放ち、白いネットを照らして日々が始まった。

昨日彼が優しい配達が終えると、あの日のように、おそらく彼の母と彼は、優しい笑顔を交わしながら、出発の支度をはじめた。
彼は、はつらつとしたみかん立場を優しく抱き上げ、白いネットが取り払われた、グレーの2階建ての1階部分。
大きなガラス戸に囲まれた真っ白な光の中に運んでいく。

絵画が取り外された向かいの倉庫は、小さな口を開けたまま、さっきまでの日々を懐かしんでいるかのようで、少し寂しく、少し笑っているようであった。

真っ白な光の中、ぎっしりと並ぶかぼちゃや、大根やと何やら楽しそうに語らう彼の声に呼び起こされたように、向かいの倉庫が口を開けると。

沢山旅を重ねた革靴達、沢山の時間、誰かの為に働いた腕時計達、何度も生活を運んだであろう大きなキャリーバック達、海を越えて貫禄を増した置物達が、ぐんぐんと積まれた中に、一人の男がそこしかない場所に丸椅子を置いき、スルメを食いちぎりながら現れた。

口を開けた倉庫はまんざらでもない表情で、彼の声に応えている。

おわり。

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最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。

期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。

必ず劇場でお会いしましょう!

踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明

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■新作ダンス劇
「舐める、床。」
2020年12月10日〜13日@あうるすぽっと
詳細後日発表

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