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【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第5話

ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまで     ダンス劇小説を毎日連載!
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で、
熊谷が60分の1人小説ダンス劇として上演致します。

第5話「ふらちな男」作.熊谷拓明 

雨の予感を覚えたのか。
粒が大く、見上げても始まりが見えない程の高さから、
果てしなく降りてくるこれらの水滴の予感を、つい数秒前に感じたところで、どこかに駆込むでもなく、すぐそこに家があるわけでもないし、あったところで、急いで家に駆け込んでまでこの雨を避けようとは思わないくらいは、全てが面倒になっていた。

今朝Amazonで届いたニューバランスのスニーカーも、グレーに紺のストライプ柄の履き心地の良いい靴下も、扁平足な足の裏も分け隔てなく雨が戯れてくる。
夏の暑さでも背中が蒸れないように設計され、背中から少し離れた黒いリュックサックも、その1番外のポケットに入っている13年ものの二つ折りの茶色い革財布だって、おそらくその中のにいる数枚の英世も、ファミリーマートで買ったお気に入りのレモンサワーのレシートも、何もかもが、大粒の雨に包まれて、何時間も前からそうだったように、ぐしょぐしょになっている。

高円寺駅を出たときは、雨の予感の匂いも、幼児期に夢中になったスライムのような重量の嫌悪感もなく、真新しいスニーカーで軽やかにファミリーマートに飛び入り、慣れた足取りで、帰路の相方であるレモンサワーをレジに運び、そのまま缶を開け、自動ドアが開くと同時に口に含んでいた。

缶チューハイを飲みながら歩く、歩きながら飲む、どちらにしても、残量が減ってくると、口に当てて上を向く角度は高くなり、中盤以降はその瞬間前を見ていない事になる、歩きスマホはいけません。歩きチューハイも危ない瞬間は間違いなくある。
しかしここで僕が、缶チューハイを飲み歩き、前を向いていなかったが為に危険な目に合うと、全国の歩きチューハイ愛好家に多大な迷惑をかけてしまう。
そう思って、最後ふた口は歩道の脇によけて、飲み干した。

金曜日の終電後の環状七号線は、大型トラックや、練馬方面へ酒疲れしたサラリーマンを運ぶタクシー、反対に高円寺駅前で、なんとかこの娘を家に連れて帰りたい男と、男をなんとかタクシーに乗せて見送りたい女の待つタクシー乗り場に向かう車両で賑わっている。

レモンサワーの最後の1滴を飲み干した時、レモンよりもさらにレモン色の月と目があった。

月がまばたきをしたのか、僕がしたのか。
レモンサワーの最後の1滴を飲み干した時、レモンよりもさらにレモン色の月と目があった。急に舌の奥から唾液が吹き出して、口の中のレモンサワーの香りを薄めていき、スライムくらいの重量のもので、みぞおちあたりが満たされた気がした。

父親が「あいつの先行きは明るいのか?東京でいったい何が出来るのつもりでいるんだ?」
そう電話で母親に聞いた、ということを母親から聞いたのは、一ヶ月ほど前、やはり環状七号線を練馬方面に歩き家に向かう夜だった。

「何が出来るつもりでいるんだ。何が出来るつもりでいるんだ。」2回、薄れたレモンサワーの香のする喉の奥で発してみた。
ほんの少し前、なんの理由もなく浮かれた男が、新宿から多くの先行きの明るいのかがわからない連中に揉まれながら、高円寺駅に雪崩れ降り。
なんの理由もなく一人で缶チューハイで乾杯をし、環状七号線を通る車達の音すら、高校時代のミスチルの歌に聞こえ、大きな声で口ずさんでいた中年の男が、月のまばたき1つで70近い父親のいいぐさを耳に戻され。
たったそんなことで、今日の宴がなかったかのように、みぞおちあたりがスライムにおしつぶされている。

きっと、ここからいつも逃げられないでいる。
どんなに口笛をふいて、いわゆる「楽しい」を満喫しようと歩きだしても、途端にリュックサックの引掛けフックの所を摘まれる、また今日もだ。

背中も、リュックサックも、二つ折りの革財布も、真新しいスニーカーも、履き心地の良い靴下も、捨て場のない空のレモンサワーも、全部全部、雨の中で溺れている。

家のマンションのすぐ下の自動販売機に、水が滴る野口英世を入れてみた。
3回戻され、4回目でやっと認められる。

とても久しぶりにココアを飲む。

おわり。

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最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。

期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。

必ず劇場でお会いしましょう!

踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明

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新作ダンス劇
「舐める、床。」
2020年12月10日〜13日@あうるすぽっと
詳細後日発表

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