【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第29話

ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまで     ダンス劇小説を毎日連載！
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で
熊谷が６０分の１人小説ダンス劇として上演致します。

第29話「やっきな男」作．熊谷拓明

北海道浦臼町字晩生内（ウラスウチョウアザオソキナイ）にある祖父母が暮した家に遊びに行くと、決まって祖父母の家の庭から国道275号線に出て、オソキナイで唯一車の通りのあるその国道を渡った所にある、公園に遊びに行くのだ。

まず２０メートルはあるであろう長い長い滑り台を、ゆるりゆるりと滑り降りる。
あんなに長くてスピードの出ない滑り台は、未だかつて出会わないが、あれがあの公園の僕的名物であった。

滑り台を降りると、右手に握りしめているビニール袋に入っている、生協で買った打ち上げ花火に、こちらもビニール袋に入っているマッチで火を着ける。
昼間の打ち上げ花火は、白い煙をなびかせ公園の空に届くと、破裂音と共に、火花とやはり白い煙をあげ、広い公園にあっという間に音も煙も何処かへ行ってしまった。

祖父母に僕が無事に国道を渡った事を、花火で知らせるとすぐに公園の奥にある、長さが15センチほどのカラフルなローラーが無数に敷き詰められた坂を、何度も失敗しながら登り、難関続きのジャングルジムに挑む。

ジャングルジムを制覇すると、ハンドルと足おきに自転車のサドルが付いたものが4台円形に並んだ遊具に、一人またがり足おきとハンドルを前後に漕いで、いつまでもまわった。
4人で同時に遊ぶと、回る速度が増すようだがそれを試した事はない。
１人で出来る限りの力で、ぐんぐん漕ぐと僕には充分なスピードが出た、向に誰も座っていないその回る遊具から見える景色は、すぐそばの林の緑と、難関続きのジャングルジムと、国道を通る車の色と、空と、全てがぐちゃぐちゃと心地よく、小学校で起きた誰がバスケットボールをくれなかったとか、女の子を少し怒らせた事とか、掃除当番を忘れて家に帰った事などを忘れさせてくれた。

あれから30年。
おそらく、忘れさせて欲しい事は、あの頃よりは重く、数多く抱えているはずなのだが、錆びついて色がわからなくなった、名前のわからないこの遊具は、サドル部分が撤去され回ることを許されていなかった。

長い長い滑り台は10メートルほどで切断され、残りの10メートルとロープで束ねられ、黄色いビニールテープで物々しく、滑る事を許されていなかった。

もう花火を打ち上げなくとも、祖父には無事を知らせられるし、グルグル回らなくとも、空気が僕の全てを連れ去ってくれたし、滑り台を滑れなくとも、何処かへ連れていかれそうなワクワクが電車を降りた時から、僕を包んだ。

寂しくなるのは簡単だ。
でも、よく感じてみると励ましてくれる空気や景色はまだまだ広がっている。

30年ぶりの難関ジャングルジムは変わらず、僕を何度もローラーで坂のふもとに運んでくれた。

おわり。

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最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。

期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。

必ず劇場でお会いしましょう！

踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明

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■新作ダンス劇
「舐める、床。」
2020年12月10日〜13日@あうるすぽっと
詳細後日発表

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