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【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第15話

ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまで     ダンス劇小説を毎日連載!
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で
熊谷が60分の1人小説ダンス劇として上演致します。

第15話「殺風景な男」作.熊谷拓明

この思考が僕の何処の垢を引っかき始めるのだろう?
いつものように、何処へ自分自身が連れて行かれるのか分からない状態で、促されたタイミングで、目を閉じる。

この日は雨がぐるぐると降り続き、8畳ほどのこの部屋を覆う屋根は、サラウンドシステムのように、場所を変えながら雨の音を伝えていた。

初めてこの部屋のドアノブに手をかけた日は、回すまでに何度も呼吸をして、何度も手を離そうとした事を今も思い出す。
奥歯の隅の方から唾液が忍び出て、舌の裏の奥の方がゆっくりと誰かの人差し指と親指で摘まれるような感覚になり、覚悟を決めて回し開けた。

入るとすぐに薄く青い光が差出て来て、初めて自分が太い針金を丁寧に編み重ねたような泥落としの上に立っていた事に気が付く、人目を避け、遠回りしてやって来たプーマのスニーカーの底には、昨日の雨のせいで泥がニヤニヤ付着しているのを見透かされているようで、急いでワイパーのように足底を動かした。

開けたドアを押し進むと、右手には、小学校の家庭室を思わせるスチール製の大きなテーブルがあり、これまたスチール製の細い筒状のペンたてに、重量感のあるシャープペンと気取った華奢なハサミが、冷たく収納されているさまが、緊張感を押し付けて、プーマのスニーカーが居心地を失った。

そんなテーブルの向こう側に立つ、白衣を羽織った無機質な男に言われるままに、部屋の真ん中に自信ありげに座面をこちらに向けた、歯医者の診察台のような大げさな椅子に向って歩き出し、案の定歯医者の診察台と似た座り心地のここに座り、少し斜めに下がる座面のお陰で、なかば強制的に背もたれに背中を押し付けられる。

無機質な男は、子供が描きそうな丸い眼鏡越しに、目を閉じるようにと、不思議なほど心のない声で言う。
感情のない声には、こちらも全く感情がわかず、ただ言葉の意味に脳が反応したように目を閉じる。

まぶたの裏を、部屋全体の薄く青い光からは想像し難い程の、オレンジ色の灯りがぐるぐる照らして、目を閉じた奥で黒目が灯りを追うようにぐるぐる動く。
未だにどんな道具で、まぶたを照らされているかはわからないが、黒目が8周もすると、自分の身体の全ての裏を意識するようになる。

後頭部、襟足、肩甲骨の間、肺の後、尾てい骨、膝裏、踵、
紛れもなくどれも全て自分の身体で、自分が責任を持つべき箇所である事を、強く再認識させれた時、右の鼻の穴の奥のあたりに、子供の頃の出来事が小さく浮かんで来る。
それを少しずつ、言葉にして、目を閉じたまま眼鏡をかけた、色白で、程よく髭の青い男に伝える。

伝え続けると、右の鼻の穴の奥のあたりに、何も浮かばなくなり、いつしか寝てしまい、それがどれだけの時間なのか、おそらく5分もないのか、眉間の奥を優しく撫でられるような感覚がやってきて目が覚める。

ゆっくりと部屋の景色が開けると、男は決まって入口にあるスチール製のテーブルの奥で、絶対に来ない次の誰かを待つように立っている、ゆっくりとこの診察台をあとにして、色白の白衣の男の前に立つと、テーブルの下の引き出しからゆっくりと、7日分に丁寧に油袋に小分けされた、名前も分からないハーブを取り出し、それぞれにシャープペンで日付けと、指定の時間、指定の蒸らし時間を書き込む。

寝起きにとりあえず歯を磨くような感覚で受け取ると、赤いドアを押し開け、ぐるぐる止まない雨の中を、今すぐにでも油袋を開けたい気持ちと戦いながら、それらが濡れないように、トレーナーの下に避難させて、精いっぱい前かがみになり、全ての雨を背中に受けて家に走り帰って来た。

1週間、袋に書かれている日付を守り、指定の時間に、指示された分数だけ正確に蒸らしたハーブティーを飲む。

続ける事で何かが変わったのか、初めて赤いドアの前に立った時よりはマシなのか、あの日々がマシではなかったのか、今となってはわからはいし、しかしあの部屋に行くをやめる理由も見つからず。

とにかくこの身体の全てに、自分で責任を持たなくてはいけない。

それだけが事実なんだ。

おわり。

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最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。

期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。

必ず劇場でお会いしましょう!

踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明

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新作ダンス劇
「舐める、床。」
2020年12月10日〜13日@あうるすぽっと
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