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【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第10話

ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまで     ダンス劇小説を毎日連載!
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で、
熊谷が60分の1人小説ダンス劇として上演致します。

第10話「いびつな男」作.熊谷拓明

50円玉3枚と10円玉1枚を、右手のてのひらから1枚ずつ器用に親指と人差し指に移し、差し入れ口からテンポよく自動販売機に投げ込んだ。

環状七号線沿い、高円寺へ向かうバス停には日を遮る屋根もなく、薄青い2つのベンチは7月の太陽に照らされて、ぐんぐん温度を上げている。
周りを見渡してもコンビニもなく、目の前でバスを逃した僕は、このベンチと並んで15分待たなくてはならない。

なんのへんてつもない緑茶が、160円もするようになったのはいつからか。
とにもかくにも、自動販売機にならんでいる緑茶が160円だと言っているのだから、こちらは値切ることも出来なければ、文句も言えない。160円なのだ。  

財布の小銭ポケットをぽんっと開けて、50円玉3枚と10円玉1枚を取り出したが、小銭をキッチリと使う男は嫌だのなんだのと、いつかのテレビでタイプではないが綺麗な女性タレントが言っていたのを思い出た。
「一緒に食事して支払いをするときに、細々してるのを見ると一気にひきますよねー」だそうだ。
「小銭がぼてぼてと財布に増えていく男よりいいだろよ。」と少し言ってみた。
だいたい彼女はその時お財布を出すフリでもしただろうか、
奢る事は嫌ではない、でも当たり前の空気の中、なんで僕が彼女の分も出さなきゃならない。
出さないとはいってない。
僕が小銭を支払ってるのを、彼女はどんなさげすんだ目で見るのだろうか…
一緒に食事などもちろんした事のない彼女に腹を立ててるうちに、賑々しい音を立てて緑茶が受け取り口に登場した。

緑茶を手に取ると一度高円寺側のベンチに座ってみるが、ズボンを家で履き忘れたのではないかと錯覚するほどに直接熱い。念の為に、隣の練馬側のベンチに座ってみたが、高円寺側での熱がまだ残っていたせいか、さらに直接熱い。

およそ5秒でベンチからベンチ、そしてベンチの横に立ち上がるのは、なんらかのエクササイズのようで、少し下手くそに笑ってみた。

ベンチよりもはるかに濃い青色の空を見上げ、冷たーい緑茶を3口急いで飲み、視線をいつもの高さに戻すと、白いハットが眩しく目に飛び込んだ。

熱射病にでもなり、立ちくらんだかと思うほど白いハットの下には、亡くなった祖父によく似た男性が、青いジャケットを着て、茶色いステッキを地面に突き立て、しゃんと背筋を伸ばし、あのベンチに座っている。

祖父が、五右衛門風呂のごとく沸きつけた温泉に入るのを、子供の頃、憧れの眼差しで見ていたことを思い出す。
さっき僕のケツと太ももを、焼こうとしたあのベンチに、こんなにも涼しい顔で祖父似の男性が座っている。

汗など一滴も見当たらないく。

頭から流れ落ちる汗が、直接左の鼻の穴に侵入してくるが、それを拭うのもこの先輩の前では恥ずかし気がして、汗のやりたいようにさせているので、左の鼻がむず痒い。
子供のころに一瞬テレビで大活躍したくしゃおじさんの様に顔をくしくしゃしてみるが、いっこうにむず痒く、ついに右手のひらでぎゅっと1拭きしてしまう。

一瞬僕の中で勝手な緊張が走るが、先輩には後輩のばたばたなど全く興味はなく、未だに環状七号線に背中を向けてしゃんと座っている。

おそらく鳴いてはいないはずの蝉の声が聞こえてきて、頭から湧き出る汗はいっこうに止まらない。

「いぇや。」
と自分でもなんの声かわからない声をあげ、緑茶を地面に置くと、いつからリュックの中にいたかがわからない茶色いフェイスタオルを取り出して、一気に顔の汗を一掃した。
おそらく茶色い糸くずが顔に数か所着いてるだろう。
止めどなく流れる汗と同じだけ程の達成感が、僕の速度を上げ、フェイスタオルを首に巻くと、緑茶を地面から取り上げ、一気に胃に流し込むと、リュックのサイドポケットに空の緑茶を差し入れ、リュックを抱えて先輩の隣に座った。

やはり、ズボンを履き忘れたんだろうか?
しかし今度はすぐには立たない、隣には彼がいる。

先輩はどんなケツと太ももをしているんだろうか。

おそらく、僕のはすでにベンチの横しまが刻印されているレベルまで追い詰められている。
しかし立たない。隣には彼がいる。

5分もたっただろうか、僕の体はベンチと一体になり、もはや汗も湧き出ない。
鳴いていはいないはずの蝉は、やはり鳴いてはいなく、彼は微動だにしない。

背後に低いエンジン音が聞こえ、ついに先輩との時間に終わりを告る。

しかし、先輩はベンチを立たずにバスに背を向けたまま。
僕は彼より先にバスに乗るのは失礼なので、彼を待つ。しかし彼は動かない、今までよりさらに動かない。

バスから下車した3名はそれぞれの道に消えて行き、運転手の低い声はバスを発車させた。

7月の青い空の下、白いハットに青いジャケットを着て、茶色いステッキを持つ祖父によく似た男性と、水色のハーフパンツに白いTシャツをぐしょぐしょに濡らし、首に茶色いタオルを巻いた男が、熱い、薄青いベンチに座っている。

7月の1番ワクワクした日の事。

終わり。

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最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。

期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。

必ず劇場でお会いしましょう!

踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明

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