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#15 部活の思い出

どうも、あたるです。

今回のテーマは「部活の思い出」です。
私はトーク内では高校時代の部活動について話していますが、ここでは中学時代のときの部活の思い出を少しお話しようかと思います。

中学時代、私は柔道部に入っていた。
体育館は当然ながら運動部が使用するが、すべての部が行えるほど広くはない。曜日ごとに体育館を使用できる部活が割り当てられ、体育館を使用できない部活は廊下でできるトレーニングやグランド外周を走るなどを行う。
この体育館使用制度に柔道部は含まれない。
柔道部は部員が少ないため広い場所は不要と判断され、体育館のステージ上に畳を引くという簡易的な練習場でお茶を濁されていた。学校の行事ごとがあるたびに畳をステージ脇に積み上げ、終わればまた敷く。これもトレーニングの一環とされていた。
ステージ上であるため、もちろん目立つ。
思春期男子にはいささか恥ずかしさもありつつ、バドミントン部のちょっと気になる可愛いあの子がいるときは練習にも気合が入る、そんなステージ上での柔道部生活。
根が真面目であるせいか、練習にちゃんと参加するという理由だけで(三年間白帯でありながら)私は部長の座に上り詰めた。まったくもっていい迷惑である。

話は変わって、毎年四月に新入生を集め、部の活動内容を10分程度で説明する部活動紹介なるものが体育館で催される。
各部部長がマイクを使い、普段どのような練習をしているか、どのような実績があるかなど説明し、さらにいくつかのパフォーマンスがステージ上で披露される。
我が柔道部であれば背負い投げ、払い腰などの派手目の投げ技で血気盛んな男子中学生の気を引こうと考え、屋外が主活動となるサッカー部であれば細かなボールコントロールが必要とされるリフティング、野球部は体育館後方からステージに向けての大遠投など、多少のイレギュラーはあるにせよ狭いステージ上でいかに魅力的な部活かを紹介するため、この日のために各部活が工夫を凝らす。

運動系の部活に力を入れている学校だったので数自体は少なかったが、当然文化部もあり、彼らもこの部活動紹介に参加する。
文化部の花形、吹奏楽部はいい。キラリと光る管楽器たちと演奏がある。なんなら一番圧巻できる部活といっても過言ではない。美術部なんかもデッサンや油絵などの作品を並べるだけでバラエティに富む。
つまり見せるものがあるわけだが、こういったパフォーマンスに向かない部活というのも悲しいかな、存在する。

仮説に元ずく実験と観察、それらから生まれる反証や論文。主戦場は実験室。どこをとってもパフォーマンスに向かない、生粋(?)の文化部活動、
その名も科学部。
そんな科学部部長の名は広井くん。制服の第一ボタンはもちろんのこと、カラーのホックまで律儀に留める、見た目と中身のギャップが全くない混じり気のない真面目な男、広井くん。もちろん成績優秀だ。
この如何ともし難い状況に、広井くんは頭を悩ませた。
なんせステージ上だ。ガスバーナーなどの数少ない派手目な実験器具は持ち込めない。さらに紹介時間は10分程度。活動紹介も含めれば実質パフォーマンスに使える時間は5分ほどだろうか。たとえ派手な実験があったとしても結果がわかるまでに時間がかかるものは行えない。
成績優秀な広井くんは考える。
「ならばステージにあるものを効果的に使えないか?」
僕の手札には何がある?
ステージ隣には体育倉庫。ボールを持ち出すことは可能だ。だが球技系の部活があるなか見劣りするだろう、、、
校歌を歌うたびに使われるグランドピアノ。音の出る仕組みを解説するか?
否、分解するわけにもいかない。
脇に積まれた柔道部の畳。論外。
残りは紹介時に手渡されるマイク、、、
「これだ!」
広井くんはひらめく。このマイクを使って行える実験。
みんながなんとなく知っていてもその発生原理まではよくわかっていない
科学的現象。ハウリングだ!
これをステージ上で発生させつつ、それがなぜ発生するのかを解説すれば科学部のこの上ないパフォーマンスになる!
真面目な広井くんは次なる一手を打つ。
「そうとなれば実験だ!」
放課後、部活動時間になると広井くんは数少ない科学部部員を引き連れ職員室に足早に向かい(無論、彼は走らない)、ステージ脇にある放送室の使用申請を出す。
律儀な広井くんはステージ脇で着替えている我が柔道部(更衣室がないため常にステージ脇はツンとしたすえた匂いが漂っている)に挨拶をし、放送室の鍵を開ける。そこからマイクスタンドを一つ、マイクを二本取り出し、そしてスピーカー、アンプの電源を入れる。
畳が敷かれた中にできた僅かな隙間、ステージ前面にマイクスタンドを立て、マイクの電源を入れる広井くん。
放送室の小窓から親指を立てる科学部員。
サムズアップ。準備は万端だ。

ステージ上では我が柔道部が乱取りをはじめ、コートでは女子バレー部がサーブの練習を行っていた。
畳に打ち付けられた中学生が放つ受け身の音。ボールの鈍い打音と掛け声が響く体育館部活動の日常のなかに、実験室から飛び出た科学部が放つ鋭い一撃。

「ガピィィィイイィイィイ!」

強烈なハウリング音が響いたのち、一瞬の静寂。
体育館中の視線はステージ上に立つ広井くんに一気に集まる。ざわつく女子バレー部。
私は背筋が凍るのを感じた。なぜか?
女子バレー部はほぼ全員がスクールカースト上位組で構成されている。片田舎のスクールカースト上位というのはつまりヤンキーなわけである。(多分に偏見が含まれている)そりゃもうおっかない。
できることなら関わりたくない彼女たちの視線を一身に浴びる広井くん。彼の肩が数センチほど強張ったのが伺える。
しかし、ここで手を緩めるわけにはいかない。間近に迫った部活動紹介で披露するパフォーマンスだ。マイクとスピーカーの位置を考え、再現可能であることと発生に最適な音量を探ることが彼らの目的である。
放送室の小窓から状況を察していない科学部員が、ニヤリと笑い顔を覗かせる。サムズアップ。彼に引くことは許されない。ここがアウェイの体育館であっても。
再び響きだすボールの打音と掛け声のなか、彼は二撃目、三撃目を放つ。

「ガピィィィイキイィイィイン!」「ボワァアァァーァン」

普段聞くことない体育館の非日常の音に苛立った女子バレー部員の一人がついに口を開いた。
「うるさいんだけど!」
口火を切った一人に呼応し、ここぞとばかりに他の部員の援護射撃が続く。
「練習の邪魔なんだけど!」
「実験室でやれよ!」
無茶言うなよ、と思いながらも何事もないように乱取りを続ける我が柔道部。すまん広井くん、私にできることは何もない。
せいぜい彼のハウリング音と彼女たちの罵声が少しでもかき消されることを願いながら、後輩をいつもより強めに畳に叩きつけることくらいである。

結局その後、広井くんから科学部顧問へ、科学部顧問から女子バレー部顧問へと状況説明伝言ゲームが開始され、体育館中に聞こえる女子バレー部員の文句は続きながらも、部活動終了時間まで十数回のハウリングが響き渡った。
放送室の鍵をしめステージを後にする広井くんと科学部員たち。
ここでも律儀な広井くん。
「お騒がせしました。」
気にするな広井くん!でもそれは彼女たちに言ってくれ!というか事前に言って!

部活動紹介当日、華やかな吹奏楽部の演奏の後、科学部紹介で新入生の多くが耳を塞いでいたことは言うまでもない。
だがしかしそれでも私は言いたい。

よくやった広井くん!お疲れ広井くん!

というわけで長々と書きましたが、本編はここから。
踊り場に響くラジオ、テーマは「部活の思い出」です。
広井くん元気かなぁ