Love was sleeping. / 槇原敬之

ある春の日のこと。

大学の食堂で友人と食事をした後、外に出ると雨が降っていた。

特に珍しいことではない。

石川県には「弁当忘れても傘忘れるな」という格言がある。

そして、大雨でも予想されない限り、いちいち傘を持ち歩かないのも県民の気質だ。

僕は構わず歩き出し、用意のいい友人は傘を差した。

「入る?」

彼女は言った。

「いや、大丈夫」

僕は軽く手を挙げて振ってみせた。

ふと一言が口をついて出る。

「でも、入れてないと、端から見たら君が冷たい人間だと思われるよな」

彼女は少し笑い、僕は背中を丸めて傘に入れてもらった。

「春雨って結構好きなんだよね。濡れても気持ちいい」

僕は確かそんなことを言いながら歩いた。

学食から校舎までの、短い距離のことだった。

濡れても平気だと思う僕に
傘を差し出してくれた人

僕の心がいつだってぬれずにいれたのは
君の心がさりげなくさしてくれた
傘の中にいたからだろう


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