バッドエンドの恭子ちゃん

学生時代、恭子ちゃんという同級生がいた。

恭子、いい名前だな。仮称だけど。あと、祐子というのも好きな名前だ。

まあいい。

恭子ちゃんは映画が好きな人だった。僕は映画には詳しくなかったので、彼女が、良かった、好きだ、と言う映画をいくつか見た。

どれもバッドエンドの暗いものばかりだった。当時だとビョークの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』とか。

ある時、僕は彼女に「なんで暗い映画ばっか見んの?」と聞いた。

「だって、人生は終わらんやん」

彼女はさらっと即答した。どこか達観したところがある人だった。

そう。生身の人間の人生は死ぬまで「エンド」しない。自分の「ハッピーエンド」を見届けることは、誰にもできない。

お釈迦様は人間の苦しみを「生病老死」の4つだと言った。生きることそれ自体が苦しみであり、生きている限り延々と「バッド」は続く。

「Happiness is a journey, not a destination.」

原典は知らないが、アメリカの政治家ロイ・M・グッドマンの言葉で「journey」が「way of travel」に差し替わるものはある。

「幸せは目的地でなく、旅の中にある」

そんなところだろう。いい言葉だな。

嵐の道程に笑い合う仲間がいる。
砂漠の中に喉を潤す井戸がある。

エンドを知らない我々も、物語にはバッドエンドが許されることを知り、そこに何が見えるのかと、じっと目を凝らす。

恭子ちゃんが今どうしているのかは知らないが、きっと幸せな人生を送っているだろう。

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