音楽の話をする時は大丈夫な時
「何だァ?是永、怒ってんのかァ?」
顧問が僕に言った。弓道部だった高校時代、放課後の部活中の1コマだ。
部員のA子が取り成そうとする。
「怒ってないよね?ね?もともとこういう顔なんだよね?」
なかなか酷い言いようだ。
「そうです」と僕は応えた。
本当は直前に顧問が言った何かの言葉に猛烈に腹が立って、ずっと鬼の形相をしていたのだが、ここはA子に免じて許すことにしよう。
「君は、憎めないね」
「是永くんが繊細な人だってことは知ってるよ」
「お前はいつもそうだな」
「あなたは人当たりがいいから」
人が理解してくれるのはとても嬉しいものだ。僕の場合、たとえそれが誤解だったとしても。僕のことを、わかってるんだよ、という気持ちが嬉しい。その歩み寄りが嬉しい。
クヨクヨするタイプだ。いつも何かに悩んでいるタイプだ。でも、そうは見せないように明るく振る舞うタイプだ。そして、周りの人はそのことを見通している。
少し落ち込んでいた時期に、好きな音楽について熱っぽく語っていたら言われた言葉がある。
「大丈夫。是永くんが音楽の話をする時は大丈夫な時だよ」
本当かどうかわからないけど、きっと君がそう言ってくれるなら、僕は大丈夫なんだろう。
だから、僕は落ち込んでいる時も、音楽を聴いて、音楽の話をする。
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