遺書
こんにちは。もしくは、こんばんは。
どうやら僕は死んでしまったようですね。
えっ?ひょっとしてまだ生きてますか?
延命治療だったら必要ありません。
ありませんが、もしあなたが望むなら、気の済むまで存分にやってみてください。
喜んで苦しみます。いつものように笑いながら苦しみます。天性のマゾヒスト。
さて、死にましたか?死んだ?
ハイ死んだ。
では、改めまして。
この度は遺書を読んでくれて、ありがとうございます。
大往生したのか、病気で長い間苦しんだのか、あるいは不慮の事故か何かでうっかりなのかはわかりません。
僕は生まれ変わりは信じていないので、ここでもう綺麗さっぱりおしまいです。すべて無になります。
あっ、お葬式は何式なのでしょうか。教義上まずければここはカットでお願いします。
まず、僕の人生の関係者の皆さんへ。
僕の死に関しては、どのような経緯であれ、誰も恨まないようにしてください。
もしかしたら、もらい事故か、医療ミスか、通り魔か、何か不測の事態があったかもしれません。
でも、僕は皆さんに許していただいて、割と気ままに生きてきましたから、その結果を受け止めます。
いや、受け止めないかもしれませんが、まあ恨んでも僕は生き返るわけじゃないですからね。
残された皆さんは、心穏やかに生きてください。それが僕の願いです。
では、個別にお話ししていきます。
家族たちへ。
遺産は大したものはありませんね。宵越しの金は持たない主義です。石川県生まれの江戸っ子です。すいません。
それでも、もし少しでもあったなら、法に則って淡々と、フェアに分配してください。
奥さんへ。
まだ生きてますか?僕の方が先に死にたいけど、ちゃんと死ねましたか?
君と出会えてよかったです。楽しかった。僕の人生はいいコメディでした。
できたら、どうぞ再婚してください。恨みません。まだまだ楽しく生きてください。
子供たちへ。
好き勝手に生きてください。
墓参りとか、要りません。僕は僕で勝手にやるからね。
でも、お母さんのことは支えてください。これは命令。守るように。
家族って、意外と言うことないんだね。いつも会ってるから。わかるかな?
僕の人生の友たちへ。
僕は、君たちの勇気、天真爛漫、知性、優しさでできています。
だから、君がただ君らしく生きてくれている限り、僕は君の中で生き続けることができます。
何か特別なことをしてくれる必要はありません。
この先どんなに君が変わっていっても、変わらない君の本質の中に、僕の存在があるのです。
フハハハハハ、俺は無限の命を手にしたのだ。
よかった。君がいてくれて。
最後に、もう一つだけ、あなたに伝えたいことがあります。
もう何も見えませんが、あなたのことはわかります。
僕には、叶えられなかった夢があります。
それはDJか、小説家か、ファッションデザイナーか、洋服の仕立て屋か、蕎麦屋か、はたまた…?
あなたには、それが何かわかるはずです。
そして、その夢は僕一人では叶えられないものですね。楽しんでくれる、喜んでくれるあなたあってのもの。
だから、あなたは、僕がその夢を叶えた姿を想像してみてください。
そしたら、僕はその夢を叶えたのと同じことになります。これすごい発明でしょ。
イマジン。
嬉しいな。ありがとう。
幸せな人生でした。
あなたの御寄附は直接的に生活の足しになります。