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「オールラウンダー」を育てない

 これまでにたくさんの子どもを見てきました。見れば見るほど「全員が違う」ことが身に染みて分かってきました。

 計算が早くて正確な子
 計算は早いけどよく間違える子
 文字が美しい子
 文字は美しいけど誤字が多い子
 足が早い子
 足が遅い子
 縄跳びが得意な子
 苦手な子
 苦手だけど好きな子
 諦めやすい子
 粘り強い子
 人前で堂々と話せる子
 人前で堂々と話すのが苦手な子
 考えはないけど発言したがる子
 考えはあるけど発言したがらない子
 ボール投げが得意な子
 ボール投げが苦手な子
 何でも好奇心を示す子
 リーダーシップがある子
 集団を陰で支えられる子
 周囲に気を配れる子
 自分の主張ができる子
 時間の管理ができる子
 時間を守るのが苦手な子
 感情を表に出す子
 感情のコントロールが苦手な子
 感情を表に出さない子
 困っていることを言える子
 困っていることを自分で解決しようとする子
 真に受けやすい子
 割と受け流せる子
 集中力がある子
 集中が続かない子
 読書をよくする子
 読書が苦手な子
・・・・・・・・・・・・・・

 これ、書こうと思えば無限に書けるんじゃないかというくらい、「教育」というものには様々な側面があることが分かります。

 今回私が書きたいこと。それは、

「子どもにたくさんのことを求めすぎていませんか?」

「子どもをオールラウンダーにしようとしていませんか?」

ということです。
 これは、年度の途中で自分に戒めていることでもあります。たまに自分を振り返って、「最近求めすぎているなー。調整しなきゃなー」と思うことがよくあります。

子ども一人ひとりの素質を見極める大切さ

 教育者である限り(教師も、親もですが)、「子どもに色んなことができるようになってほしい」と思うものです。私も「この子にはこんなことができるようになってほしいな。」と思いながら、授業や行事に取り組んでいきます。
 ただ、ここで忘れてはならないと思っているのが、

「子ども一人ひとりの素質は違う」

ということです。「素質」というと語弊があるかもしれませんが、他に言葉が見つからないのでここではこう書きます。
 どういうことかというと、教師や親が子どもに求めている「なってほしい」ということに対して、「その子が今それができていないのはなぜか?」を一度立ち止まって考えてからアプローチをした方がよいのではないか、ということです。
 そしてそれを考えるときには、なるべくたくさんの「可能性」を探り、アプローチの仕方を変えることが大切だと思っています。思いつくままに書くと、

①やる気がないからできていないのか
②先生の話を聞いていないからできないのか
③練習量が足りないからできていないのか
④前に学習したことが定着していないからできていないのか
⑤今その子にとって、発達的に習得できる時期ではないからできないのか
⑥そもそもその子には習得するのが困難なことなのか
・・・

とまあ様々な可能性が出てくると思います(じっくり考えるとまだあるでしょうが)。
 同じ「できない」に対しても、その「可能性」によってアプローチは変わってきます。

①が原因なら、その子に意欲が湧くような仕掛けが必要でしょう。
②が原因なら、もう一度話してみて、理解できているかどうかを確認します。
③が原因なら、練習量を増やせばできるようになります。
④が原因なら、既習事項を確認し、習得させてから取り組ませるとよいです。

 問題は⑤と⑥の場合です。このことが原因だった場合、「今この時」に、習得を強制することが、必ずしもその子にとってよいことではない場合があります。
 
 例えば⑤の場合。
 子ども一人ひとりの発達には差があります。一応、学習指導要領で決まっていることとはいえ、その子にとって「今」それが習得できる時期ではないことである可能性もあります。その時に「できなきゃダメだ」と、習得を強制するとどうなるでしょう。その場合、ただただその子を追い詰めることになります。
 「自分は何でできないのだろう。」
 「自分はみんなと違ってダメだ。」
 「勉強なんてきらいだ。」
と、自分に対して否定的な感情が湧きます。学習に対する意欲がなくなることもあるでしょう。
 それが⑥の場合はもっと顕著に現れます。
 子どもによっては「今すぐ自分で空を飛べ」と言われるのと同じくらい無理なことを言われている感覚をもってしまうこともあります。

 みなさんにも一つくらいはあるのではないでしょうか。「自分にはこれはもう一生できないだろうな。」と諦めていることが。
 私はあります。「片付け」です。小学生のころからずーーっと言われてきました。今でもよく妻にも言われるので定期的に片付けるように気をつけてはいますが、気がつけば自分の部屋に書類や本が散らかっているのです。(自分としては散らかっているというよりも『まとめて置いてある』というつもりなのですが、一般的には『散らかっている』というのだそうです笑)
 私としては、この一点のみを見て「常に周囲を整理しておくようにしなさい」と言われることは、「空を飛べ」と言われているのと同じような感覚なわけです。そして言われるたびに、「いやいや、他に俺のいいとこってないの?片付けのことを言うなら、それを同じくらいできてることを認めてくれよ。」と思うわけです。
 まあ流石に私は大人ですし、自分のよいところは自分でわかっており、ある程度の自己受容もできているので、ちょっと言われたくらいであれば少しやさぐれるくらいで済みます。でも、発達の未熟な子どもの場合はそうはいきません。
 いくらがんばってもできないことを求められることは、非常に苦痛を感じるのです。

 というような考えもあり、私は子どもに指導する際には「この子にとって、これは『今』できるようにならなければならない時なのか、そもそも『適切な方法を取れば、今できること』なのか」を考えること、つまり「一人ひとりの特性、素質を見極める」ことが大切なのではないかと考えています。

オールラウンダーは育てなくてもよい

 私は「学校ではオールラウンダーは育てなくてもよい」と考えています。理由は上に書いたような理由からです。苦手なこと、できないことは「あってもよい」と思うし、それを子どもたちに対して言ってもよいと思います。(「できないままにしておいてよい」というのとは少し違いますよ。)
 大切なのは、「『できないこと』に対してどうするか」を自分で考える力を付けることです。つまり、子ども自身が、「できないことに対してどうするかを決められる」ようになってほしいなと思っています。

 大人でもそうだと思いますが、できないことがあったときにいくつかの選択肢が思いつくかと思います。

①努力して、勉強して、できるようになる
②得意な人に任せる
③いつかできるようなると思って、今は放っておく


 職員室でよく見られるのは「パソコン関係」でしょうか。職員室にいる先生方にも色んな人(年齢も性別も、得意不得意も様々)がいて、一緒に仕事をしています。パソコンの操作が苦手な人もいますよね。そんな時、その先生はどうしていますか?
 みんなが努力して、勉強して、自分でできるようになる①を選択していますか?
 恐らく多くの人は、「得意な人に聞く、任せる」という、上記の②を選択しているのではないでしょうか。エクセル操作なんて、人に聞くかやってもらうのが手っ取り早いですからね。1〜2時間自分で調べたり悩んだりしていることが、得意な人にやってもらったら5秒でできたなんてザラにありますからね。
 でもこれ、別に問題はないですよね。
 「仕事をする」という目的が達成できているのですから、人の力は借りてよいわけです。
 ただ、なぜかこと教室においては「苦手なことはできるように努力しなさい」としか言わないような傾向があるように思います。
 私としてはもっと「できないことがあって今どうやってもできないなら、得意な人に任せたり聞いたりしてもいいよ」という選択肢を与えることが大切なのかなと思います。「できないこと」に対して「得意な人に任せる」というのも、立派な問題解決の仕方だと思うのです。
 また、人に任せた結果、「かっこいいな、自分もできるようになりたいな。」と思えば、自分で努力してできるようになることもあるでしょう。これは、強制されてできるようになるよりも、その子にとってはよっぽど有意義です。
 そして裏を返せば、「自分が得意なことは頼ってもらえる」ということにもなります。つまり、「できる」にフォーカスしやすい雰囲気ができるのです。
 「できる」にフォーカスし自己肯定感を高めること。これも教育の大切な側面の一つなのではないでしょうか。

子どもの特性と将来を考えて

 私は「強制するのはよくない」と言っているわけではありません。必要なときもあります。
 ただ、子ども一人ひとりの特性を踏まえた上で、適切な時期に、適切な指導をすることが、長期的に見たときに子どもの人生が豊かになるのではないか、そしてそれを実現するためには、やはり子どもの素質、特性をしっかりと観察し、見極めた上で指導していくことが大切だということを忘れないようにして指導していきたいなと思っています。
 「苦手なことを埋めていく子」、「得意なことをとことん伸ばす子」、どちらも価値があり、大切です。ただ私としては、「得意なことをとことん伸ばすことができる子」の方が、社会に出たときに何か大きなイノベーションを起こしてくれそうな気がします。
 社会に旋風を巻き起こすほどでなくとも、会社、部署、チームなど、それぞれの場所でそれぞれの得意を生かした、生き生きとした働き方が求められる時代になっていくと思うからです。
 ま、何でもできる大人はいないですからね。私も含めて。
 終わり方がわからなくなってしまいましたが、今日はこの辺で。
 

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