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放浪記 8/9


その街の新興宗教は流れる川を無視して成り立ったため、川はもう流れなくなった。
多くの家に、ガラス張りの飾り窓がくっついていて、埃を被り永遠のキスをした石膏像が寂しい薄暗闇に置かれていた。
装飾が彫られたガラスは、14時でも中から薄く照らされていた。
はるか昔に、白いクリームのようなペンキで飾られた公衆便所が建てられたが、その入り口は年々どこか奥まっていくように思え、意味をなくしていた。

学園の前には大きな商店街が並び、中に入ると、糸のような隙間から辛うじて営業していることが伺える中華料理屋がある。その店内は、テレビのブルーライトで青く照らされているのみで、客の姿はなかった。ここにもまた、かつては食品サンプルが飾られていたであろう場所に、こちらを向いて土下座をする商人の陶器だけが埃を被っている。

この商店街を抜けた先には、大きな坂と、その坂の螺旋の中心には寺院が建っており、大きな境内横に拡がることはなく堆く積まれている。
螺旋を上がっていくと、白い大きな仮設壁で覆われた部分があり、中は濡れ技で四角いサイコロのように区切られ支えられた土壁がある。隙間からは緑が漏れ出ている。
この坂の頂点は駅になっており、そこからまた大きく降らなければならない。

その少し先の町には誰も知らないニッチが凹凸の多い塔の先にあり、
誰の帰りも待っていない。だが、ごく稀に空を見上げると、邪悪な天使が二体こちらを見下ろしていたりする。