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断絶

嫌なことは二つ三つと続く.仲の良かった子と喧嘩別れした.

元々私が彼の相談に乗っていたのだが,いつの間にかお互いが相談するようになった.くだらない話をだらだらとして,それだけで救われている気持になっていた.

最近,話をしていなかった.私が忙しいせいでもあるが,それにしても長い間話していなかった.なので,久し振りだね,と話をした.

返事が返ってきた.今までにない冷たい返事だった.我々の間にあったはずのデファクトスタンダード的返答でなく,そっけなく返事が来ただけだった.私は彼に嫌われていることを直感した.

君は私を嫌いになっただろうか,とストレートに聞いた.彼は,そういうふうに言われるとより嫌いになる,と言った.あまりに直球の,蜜月の時を過ごした友からの,突然の宣言であった.

泣きたいような気持になりつつ,これからも関係を続けていくのであれば,悪い点は修正しなくてはならない,と思った.なので,丁重にお願いした.私の何がいけなかっただろうか,私にはどうしてもわからなかった,すまない,教えてください,と.

彼からの返事は,どうしようもないものだった.それをいちいち説明することは面倒である,第一いつそれがあったなど覚えてはいない,と.

顔から血の気が引くのを感じつつ,私はもう関係が修復できないことを悟った.そして,多分に気持ちの悪い,そして責任転嫁的なことを彼に伝えた.私は今生と死の淵をさまよっているが,君が死の側へ私を突き落としてくれた.君が,私を殺したのだ,と.

私は,少しでも相手に傷跡を残したかった.しかし,その思いも虚しく絶たれる.彼は,人の死など興味がない,第一君に生きててほしかったなんて思ったことは一度もない,と言った.

私は腸がちぎれるような憤怒に沈んだ.そこから先は,彼の行動をいちいち攻撃した.本当に好きな人から見向きもされないからと言って,囲いを作ってちやほやされて,精神性のないやつだな,と.彼はいくらか返事をしてきたが,正直に言ってろくなものではなかった.どれもが私の言葉が突き刺さっていることを明らかにしてくれているような,そんな反応だった.

この顛末を,色々ぼやかしつつ友人に話した.私は嫌なことがあったら言ってほしいと伝えていた,それも折に触れて何度も,と.対して友人は言った.きっと相手の抱えていたものは,うまく表現できるようなものではなかったんだろう.それはその質が極めて低い(極端な例を挙げれば,句読点の使い方が気に食わないとか),或いはその量が極めて少ない,というような話だろう.それらは,決して伝える水準にあるものではなくて,だからこそある段階までは特に問題なく対話できていたのだろう.しかしある日,その塵のような不満が限界を超えて溜まって,それが爆発して,三行半を叩きつけたんだろう,と.

私はこの友人の助言をもっともだと思った.

私は自分の行動を大人げないと思うが,しかし私がそういった行動に出たのは,相手が言ってはならぬ一言を発したからだ.「君に生きててほしいなんて一度も思わなかった」.これは,決して,何があろうとも,発してはいけない言葉なのだ.人の生死の根幹にかかわることを,それも今まさに自殺を検討している人間のそれを,攻撃してはいけないのだ.それはちょうど,戦争のさなかであっても種々の約束(病院船を攻撃してはならない,衛星部隊を攻撃してはならない,といったようなもの)が存在して,それを破ることは許されないことに似ている.仮令喧嘩が相手との関係の断絶を前提とした総力戦でも,してはならぬ,言ってはならぬことは存在するのだ.

しかしもう何を言っても遠い.私はもう二度と顔を見せるな,と言って彼を拒絶した.ブロックした.もう,彼と話すこともないだろう.

今日の気づき

文字を太字にしたり,見出しを挿入することができるんですね.

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