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モーニング、和歌山

 トーストにバターを塗るのが苦手で、カリカリな面にバターナイフがプスプスと突き刺さってしまう。ゆで卵の殻を剥くのが苦手で、ツルツルに生まれるはずだった白身をボロボロにしてしまう。コーヒーを飲むのは得意だ。美味しくないコーヒーだって美味しそうに飲むことができる。「酸味があって良いね」などと、思ってもないことを堂々と言える。なんか納豆の味するな〜と思った時も、友達に言いたくて言いたくて仕方ないけど、ギリギリ我慢できる。
 今朝、トーストとゆで卵とコーヒーのモーニングセットを食べた。珍しく目覚めが良かったので自信満々で注文する。でも、寝起きの調子と手先の器用さは関係ないようで、やっぱり、やっぱりボロボロにしてしまった。それがすごく恥ずかしくて、隣の席の人にバレないように、近くのテーブルを拭いている店員さんに微笑まれないように、コソコソと素早く食べ切った。コーヒーを飲む時だけは堂々と得意げに振る舞える。でも「堂々と得意げに」の前には「本当は酸味が強くて苦手なタイプだけど」がピッタリとくっ付いている。かろうじて食べ切ったモーニングセットの抜け殻を、余裕のかけらも無い顔と心で食器返却口に持っていく。穏やかな朝、やっと来ることができた和歌山で、モーニングと自意識に敗北した。

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