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偉大なるマイケル・ベイ

 先日、マイケル・ベイの『ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金』を観返した。この映画は本当にすごくて、実際にあった殺人事件を徹底的に「バカがやらかしたバカ行為」として描いている。緻密な戦略もないし、ミステリー要素もないし、犯罪者の異常心理描写などもない。ただ、その辺の若干意識高いバカな若者が世間の波に揉まれて人生に失敗してしまった的な、そういう青春映画のテイストで「実際にあった殺人事件」を描いている。

 実際に起きた犯罪をここまでコミカルに、露悪的に描くこの映画自体の加害性に心を揺らしながらも、画面から滲み出る快楽に身を委ねてしまう。画面を貫く逆光、ヒロイックなローアングルショット、パチンコみたいなサウンドエフェクト、散漫な編集、それら全てがキャラクターたちの浅はかな自意識表現になっていて、「バカだなあ」と笑いながら、どんどん最悪な行為に手を染める主人公たちをワクワクしながら見守ってしまう。

 そして、こんな映画を2時間以上楽しんでいる自分は果たして「賢いのか」と考えてしまう。実話がベースだと気を引き締めて観ていた映画は、段々いつもの「マイケル・ベイの映画」として楽しんでしまっている。でもエンドクレジットで確実に「この事件はありました」と突き付けられる。死人もいる。マイケル・ベイ自身が「マイケル・ベイ映画」をフリにすると、こんなにも恐ろしいリアリティが立ち上がる。

 マイケル・ベイの映画はいつだって世間からバカにされてきた。たまに作品の批判を越えて、マイケル・ベイその人もまるで知性がないようなことを言われたりするが、自身の作風をこうしてネタ化できるぐらいマイケル・ベイはきっとその事実を楽しんで映画を作っている。

 ベイ映画の、あの尋常ではないスケール感と高揚感は、少しでも映像制作経験がある人であれば平凡なクリエイターにはできないことぐらいわかる。並外れた統率力と映像のビジョンがあって初めてああいう映像をディレクションすることができる。

 作品によっては脚本がとんでもないことになっているが、映画製作においてあそこまで脚本以上に映像やテンション感を重視するのも勇気のいる選択であり、それができるのも才能のひとつだと思う。3Dに関しても『トランスフォーマー/ロストエイジ』などは、3D映像の可能性への挑戦という意味で前人未到の域に達していると思う。

 で、マイケル・ベイはバカにしてくる一部の観客に対して「いや、俺賢いんで!」と言い返したりもしない。スピルバーグみたいに「俺、本当はこんなこともできるんだぞ!」的な映画も作ろうとしない。あくまでずっと「バカがやらかしたバカ行為」映画を作り続ける。そんなマイケル・ベイのかっこよさを最近ずっと考えている。

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