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ひそひそ昔話

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20歳前後までの忘れ去られた記憶を手繰り寄せて、話します。恥ずかしいので、ひそひそ喋るから耳を近づけて読んであげてください。
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2020年7月の記事一覧

ひそひそ昔話-その11 夏のむせ返る蜃気楼の臭いの中に-

部屋には誰かが留守番をしているわけでもないのに、僕は「いってきます」とカラ元気に挨拶して扉を開けた。開けた瞬間、鬱陶しいくらいの熱に包まれる。そしてさらにムッとする臭いが鼻腔を刺激した。動物の臭いだ。我が家の近くには小さい動物園があって、そこにはヤギやロバやウサギなんかがいる。そんなヤギやロバやウサギなんかのニオイが、東からの風に運ばれて僕の鼻腔最上部、嗅上皮の粘膜に溶け込み、その刺激を受けたとある細胞に電気信号を脳みそへと伝えさせたのだ。暗号みたいなその電気信号が脳みそに解