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ひそひそ昔話

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20歳前後までの忘れ去られた記憶を手繰り寄せて、話します。恥ずかしいので、ひそひそ喋るから耳を近づけて読んであげてください。
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2020年3月の記事一覧

ひそひそ昔話-その10 歯列模型の獅子舞で、保健室の妖精の憂鬱を噛んだ-

もうすっかり外は秋めいてる。神武大祭ももうすぐあるみたいだ。校門や正面玄関にはイチョウの扇がたくさん落ちている。運動場もたくさん黄色に染まっているけれど、それよりはギンナンの臭いが鼻孔を刺激する。僕はこの臭いが酷く苦手だったし、給食にこれが出た時はゴミ箱に捨ててしまった。 学校探検と称してユウジと校舎中を回って遊ぶのが最近楽しい。昼休みのチャイムが鳴ると専ら2人で連れ立っている。小学校4年生にもなって今更学校の中を探検だなんておかしな話だけれど、ドッジボールや長縄をするより

ひそひそ昔話 -その9 ちょっと川でも見てくるよ、というその無責任な渇望-

その日先生は神妙な面持ちで教室に入ってきて、午後の授業が取りやめになったことと明日の模試が中止になったことを告げた。世の中の状況を鑑みるに仕方ないことだよな、という空気が教室には満ちていた。いつもよりも枚数の多い課題プリントの束を整える。ホームルームの後のガヤガヤした雰囲気の教室の中に、あの子が朝からいなかったことに気づいた。そういえば風邪で休みだったんだっけ。メールしておこう。 件名:明日の模試 本文:なんか明日の模試なくなったんだって。なんか午後の授業もなくなっちゃった