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ひそひそ昔話

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20歳前後までの忘れ去られた記憶を手繰り寄せて、話します。恥ずかしいので、ひそひそ喋るから耳を近づけて読んであげてください。
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2020年2月の記事一覧

ひそひそ昔話 -その8 ふと、見上げた夜空の星たちの光-

全国大会、舞台袖。 誰も彼も妙に落ち着かないそぶり。 指を開いたり閉じたり、肩を回したり、首を回したり、深呼吸を繰り返してそのそぶりを誤魔化してみたり。 身体がこわばっては出る声も出ないし、伸びる音も伸びていかない。我々は客席の一番向こう、非常口の誘導灯の下で腕を組んで立ち見をしている人の心にまで、曲の想いを届けなければならないのだ。 そっと後ろから手が伸びてきて、僕の肩をほぐし始める。みんな緊張している。僕は仲間の手のぬくもりを肩に感じながら、夏の終わりに両親に買ってもらっ

ひそひそ昔話 -その7 火のないところに煙が立ったわけだが、最終的にポルノグラフィティで空気を入れ換えてもらった話-

もう時効だと信じるけど、5年前、水曜日、ポテチを無性に食べたくなってその夜。 薄くスライスされたジャガイモが、まな板の上で自分の運命を諦めたように黙っている。僕は、蚊取り線香のようにグルグルと巻かれた電熱コンロの上に、フッ素コーティングの剥がれかけている、大振りのフライパンを乗せた。オリーブオイルを1センチ弱浸し、電熱線に熱を加える。 昔父親がポテチを揚げて作っていたことをふと思い出したがために、自分でもジャガイモを揚げるに至ったわけだ。そしてまた、底の浅いフライパンでも揚