できるわけないのに
リハーサル直前。
尊敬するプレイヤーさんが近づいてきた。
違う楽器だけど、昔から憧れていて文字通り「近づけない」方だ。今でこそ時々お仕事でご一緒することもあるが、こちらから話しかけたりすることはほとんどない。
「あのさ、最後の曲なんだけどね」
なんだろう。音の変更かな。
「フィナーレの部分で楽器を持ち替えてほしいんだよ」
あ、A管かな?バスクラかな?
と、渡された新しい楽譜を見て驚いた。
「え、これ……ピッコロですよね」
「そうそう。はいこれ使って。じゃ、よろしくー☺」
え。どういうこと?
渡された楽譜と楽器をぼんやり見ながら考える。
考えても考えても分からない。
どういうこと?
気づけばリハーサル開始時間。
プログラム順にリハは進む。
そしてついにその時が。
結局私は自分に降りかかった、このとんでもない事態を誰にも言うことができずにいた。しかしリハは進む。曲も進む。
椅子の上にあるピッコロを掴む。
言っておくが、分かりきっているが、言うまでもないのだが
ピッコロを吹いたことなどない。
できるわけがないのだよ!
ソロでないことが唯一の救いだった。
とはいえ、吹き真似でどうにかできるものでもないような気がする。
くる……。くるぞ……。
その時、手に温もりを感じた。
ピッコロが私に何かを伝えようとしてるのか?
「ええい!どうにかなれ!」
私は運指も吹き方も分からない楽器を構えた。
というところで目が覚めた。
なんて怖ろしい夢!笑
でも、その後演奏ができたのかどうかは気になるところ。
吹けたんかなーーー。
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