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CES2020 雑感

年初にラスベガスで開催されたCES 2020に関して、登壇をお願いされていた報告会も一通り終わったので、感じたことや今後の展望に関してまとめてみようと思います。

その前に、私のCESへの関わり方についてですが、2年連続でJ-Startupパビリオンのプロデュースチームの一員として関わらせてもらっています。

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私のミッションとしては、イベント中に色々な投資家やメディアなどをパビリオンに誘導することがメインだったので、ベガスにいる間は会場を歩き回って色んな国の視察団体やメディアをナンパして回っていました。高校時代にヒップホップ系のアパレルショップで呼び子のバイトをやっていた経験が役立ちました笑

そのようなポジションだったので、CES開催中はJ-StartupパビリオンがあるEureka Parkと呼ばれるエリアにず~っといました。みなさんがメディアで見るようなトヨタのスマートシティ構想とか、SONYが発表した電気自動車といった大手企業の展示エリアはぜんぜん見れていません。なので、私の所感は基本的にスタートアップ関連がメインになります。

スタートアップが中心になる

これはもう色々なところでも言われていますが、CESにおいてもスタートアップが中心になっていくなぁというのを顕著に感じました。象徴的だったのは、Delta航空の発表でした。もともとは家電の見本市だったCESにDelta航空が出展すること自体が時代の変化の現れでもありますが、その展示内容は自社で開発した製品ではなく、スタートアップの開発した製品だったのです。同じくJ-Startupパビリオンのプロデュースチームのメンバーで、Shiftall代表の岩佐さんも仰っていましたが、CESは単純な家電製品の展示からテクノロジーの展示へとシフトしてきており、Deltaのような事例は今後もどんどん増えてくると思われます。

実はこれ、私が前々からCES以上に注目している、フランスのViva Technologyという展示会のフォーマットにどんどん近づいているという話でもあります。このイベントについては、ずいぶん前に日本企業がViva Techonologyに注目すべき理由という記事を書いているので、そちらを読んでいただければと思いますが、スーパーざっくり言うと、大企業がスタートアップとのコラボプロジェクトをいっぱい展示しているオープンイノベーションの祭典です。CESも同じく、メーカーが自社でイチから開発した製品を展示するのではなくて、巨大資本がスタートアップと連携して開発した、最新技術の活用事例の展示が中心になってくるのではないかと思います。実際Samsungなんかは、スタートアップ専用エリアであるEureka ParkにC-Labという名義でブースを展開しており、自社でインキュベーションしているスタートアップの製品を展示しています。フランスの大手金融機関であるCredit Agricoleも、Le Villageというアクセラレーター名義で同じような展示をしていますし、こうした動きは今後も加速していくと思います。

オープンイノベーション時代の幕開け

こうしたCESのトレンドが示しているのは、いよいよ全世界規模でオープンイノベーションの動きが本格化してくるということです。日本におけるオープンイノベーションプラットフォームの先駆者であるCrewwさんが昨年大幅なリブランディングをして、「大挑戦時代をつくる」というとってもワクワクするビジョンを掲げていますが、その大挑戦時代の軸となるのが、企業やスタートアップがそれぞれの得意分野を活かしてコラボする共創型のイノベーションです。私も昨年オープンイノベーションの本質という記事を書きましたが、技術進化のスピードが過去に無いレベルにまで早まっている今の時代において、巨大組織の力学に従っていては先進的な製品を世に出すことは極めて難しくなってきます。スタートアップや大学、それこそアーティストといった特殊な才能を持ったプレイヤーと連携していくことが、大企業にとってとても重要になります。

個人的にこの動きは、国というレイヤーの上に企業というレイヤーが出来上がっていった動きと非常に似ていると思っています。古くは東インド会社などに始まり、現在のGAFAMと呼ばれるようなグローバル企業が国家をインフラとして使っているのと同じく、スタートアップが大企業をインフラとして使うようなイメージです。この辺の話を始めると本筋から大きくハズレてしまうのであまり膨らませませんが、企業と国家の関係性を参考にすれば、これから数年後のスタートアップと大企業の関係性がどうなるかのイメージが理解しやすいのではと思っています。

CESの万博化

閑話休題。話をCESの内容に戻すと、大企業とスタートアップのコラボ以外で私が今年感じたのは、CESが万博のように各国が自身の先進性を世界に誇示するような場になってきているということです。

会期中、私がずっといたEureka Parkというのは、プロダクトをリリースしたばかりのスタートアップしか展示できないという制限があるエリアで、初期の頃はそれこそ蚤の市のような、なんだかよく分からない不思議なガジェットを展示する小さなブースが並ぶような場だったそうです。それが、数年前から各国がパビリオンを展開するようになり、自分たちの国のスタートアップがどれだけすごいかを世界に見せつける場所になってきました。その傾向は今年も続いており、Eureka Parkの展示の半分近くが、国や自治体、大学などのパビリオンになっていました。それを分かりやすくビジュアル化してみたのが、こちらの画像です。

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こちらのマップは、日本のJ-StartupやオランダのNLパビリオンなど、明確に国主導のブースだけでなく、フランスのCEAや韓国のKISTのような研究機関、大学なども含んでいます。なので、厳密にナショナルパビリオンだけではありませんが、どの国が積極的に進出してきているかを感覚的に理解してもらいやすいように、あえて乱暴にまとめてあります。

パッと見ですぐ気付かれるのは、左下に密集しているフランスブースの数の多さではないでしょうか。こちらは3年くらい前からかなりアグレッシブに展開してきているFrench Techというフランスの国家的なスタートアップエコシステム推進プログラムの成果で、Eureka Park展示全体のおよそ3割をフランスが占めるまでになってきています。

次に目を引くのが韓国勢です。こちらは、KOTRAという韓国版JETROが主催するブースや、ソウル市のブース、KAISTといった大学などなど、多様な出展者がいるのが特徴です。そして、これはあくまでとある担当者の主観的な見解でしたが、出展者同士に横の繋がりが無く実はあまり仲が良くない団体もいるそうで、フランスのように1箇所に固まっていませんでした。これは非常にもったいないなと思っていて、全員が団結して大きな韓国エリアを作った方が、来場者に与えるインパクトははるかに大きなものになり、メディア露出の機会も増えるはずです。来年はおそらくもう少しまとまってくるのではと思っています。

それ以外にも、単体のパビリオンとしては一番面積の広かった台湾、毎年同じ場所に出展しているイスラエルとオランダ、私がプロデュースチームの一員を務めた日本などが大きなブースを構えています。あくまで私の個人的なカウントですが、およそ20カ国が何らかの形でパビリオンを展開していました。こうして俯瞰的に見て頂けるとわかると思いますが、全体のおよそ6割強が国や自治体といったパビリオンとなっており、この動きは間違いなく来年も広がっていくでしょう。それくらい、スタートアップを取り巻くイノベーションエコシステムというのは、世界的に重要度が上がっているわけです。

もともとスタートアップを主軸にしているViva Technologyはもちろん、世界中で今まで大企業が中心となっていたような展示会がどんどんスタートアップ中心に移り変わっていくというのが、2020年代の大きなトレンドになるのではないかと思っています。それと並行して、各国政府のスタートアップ支援政策はより本格的になり、強力なイノベーションエコシステムを構築することが国家の活力を大きく左右する重要事項になってきます。オリンピックのタイミングで世界中の国が東京にオリンピックハウスという臨時の迎賓館のようなものを作るのですが、そこで紹介されるのも、これまでのように自国の食や文化、観光といった従来の価値だけではなく、どれだけイノベーティブな技術があるか、イノベーションエコシステムが育っているかという点が重視されており、私達EDGEofもすでに幾つかの国と共同プロジェクトの話を始めているところです。

色々と話が飛びましたが、CES 2020を経ての今年の展望としては、兎にも角にもスタートアップがこれまで以上に注目される年になるということ、大企業のオープンイノベーション戦略がより重要になるということ、そして世界中の国がこぞってイノベーションエコシステムの育成・啓蒙に力を入れるようになるということです。一言で言ってしまうと、2020年はスタートアップがあらゆる面で主役になる年になり、イノベーションの構造がこれまでと一気に変わる2020年代の幕開けになるということです。楽しみ。

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