シャンパンランチ 第一話

女のエゴというか特有のイヤラシさを思いきり追求した作品です。偏見でしょうかね?読後感?自分的にはあまり好まないけど世の中善人ばかりじゃないから。
 
 暑さが全身にからみつくような夜だった。
「ああ、疲れた」
 仕事を終え、アパートの自分の部屋に戻り開口一番、飛び出す言葉はいつも同じだ。妙子の勤めているデパートは中元シーズンで連日大勢の客がひしめいきあい、それに比例して彼女の疲労も増していた。
「もう、くたくた・・それにしても、なんでこんなに蒸すのよ」
 東京は都市熱で異常に暑く、熱帯夜が続いている。妙子はクーラーを最強にし、その辺に服を脱ぎ捨てると、下着姿のままベッドにごろりと横たわった。とたん強烈な眠気に襲われ、もうろうとしかけた意識の中で、昨夜の三千代からの電話を思い出していた。
「ねえ聞いて、ビッグニュース!」三千代の声は興奮して上ずっていた。「まり子のことなんだけどね、最近離婚したんだって、偶然人から聞いてもうびっくりしちゃった」
 三千代とまり子は、妙子が大学生の時所属していたテニスの同好会仲間だった。
 三千代は勝ち気な性格の都会的な美人で、たとえるなら棘のある薔薇の花とでも言おうか。一方、まり子は雫を含んだ桔梗を思わせる、きれいな楚々とした娘だった。コンパに行くと二人は人気を二分し、さなが蜜に群がる蟻のように男達が擦り寄っていったものだ。平凡な容貌の妙子は、いつもその様子をただ傍観するだけだった。そんな彼女にも憧れの君がいた。サークルの一年先輩の森田圭介。
黒ヒョウのような引き締まった肉体を持った、あぶなげな匂いのする、それでいて知性とユーモアの備わった男だった。
 夢中になっても接近できない妙子と違って積極的に行動したのは三千代だった。圭介が卒業して難関のテレビ局に入社したあとも、あの手この手でいろいろアプローチをしたようだったが、結局ふられたのか「あんな奴、もう関係ないわ」と三千代はしばらく悪態をついていた。
 まり子は卒業してすぐ、十も年上の病院の跡取り息子と見合い結婚をした。豪勢な結婚式に出席した帰り道、三千代はどことなく不機嫌だった。
「まり子って、あれでけっこう計算高いわよねえ」
 意地悪くそう呟いた三千代も、それから三年後、社内恋愛を実らせ結婚した。相手は整った容姿をした大手銀行の若手エリートで、三千代はひどく自慢気だった。二人とも結婚後は夫婦水入らずで暮らしており、子供はまだいない。
 妙子といえば、今もあいかわらず独身で今年二十七歳になる。むろん恋愛めいたことの二・三はあったが、いずれも結婚に結びつくものではなかった。
 ここ数年、三人がそろって会う回数はめっきり減った。その理由はおそらく三千代がまり子を避けてるからだろうと妙子は思っている。昔から三千代はまり子に一歩的なライバル意識を持っていた。かたや、まり子はおとなしい外見のわりにしんお強いしっかりした面があり、結婚の件も何も相談なく、ただ式に出席してもらいたいという事後報告だけだった。
 最後に三人で会ったのは、三千代の新居に遊びに行った一年以上も前のことで、その時のまり子はいつもと変わらず平穏な様子に見えたのだが。
「だから、三人でまた会いましょうよ。まり子って何も話してくれないから、いろいろ事情も聞きたいし・・ねえ、どうかしら」
「別にかまわないけど」
「まり子、実家にいるらしいのよ。明日連絡取るから妙子の次の休みの日教えてよ、皆で会う段取りつけとくから」
 

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