君のいる朝
ゆきはのお話は
「ずっと貴方を捜していました」で始まり「焦げたトーストは、苦いのにやたら美味しかった」で終わります。
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ずっと貴方を捜していました。
貴方がいないことに気が付いたのは、秋の夕暮れ時でした。日が傾いてきて、窓からオレンジの夕日が差し込んでいるときでした。突然、貴方が居ない事実を知ったのです。
ええ、その時には貴方はとっくに居なくなっていた。私が遅かったのです。薄情な奴とお思いでしょう。仕事に追われて、朝には家を出て、帰りは夜遅く。家出することはシャワーと睡眠だけ。貴方のことなど気づきもしないし見向きもしない。
その癖、貴方がいないことに気がついたらおろおろして。だというのに、きっとすぐに帰ってくるわなんて思いながらいつもと変わらない日々を過ごして。
……愚かしいとお思いでしょう。
私も思います、とても愚かだって。あの時すぐに貴方を探していたら、こんなに長いこと待たせることだってなかったわ。
私、貴方にまた会えて本当に嬉しいの。私は変わったわ。見て、ストーブなんて買ったの。家にいる時間が増えたから、ゆっくりシチューを煮てみたりしたくて。え?料理は苦手じゃなかったかって?それは……これから練習するから大目に見て。
でも、これが第一歩。今度こそ貴方と上手くやっていけるような気がするの。
ね、そう思うでしょ、私のバターナイフ。
「……アテレコが長い。あとなんで女?」
「そういう気分だったから。どーよ、結構うまかったと思うんだけど」
「あーそうだねー。しかし最初と最後で口調変わってない?」
「棒読みでガチのダメ出ししないで貰っていいですかね?」
「演劇部がんばれよ」
「頑張ったよ」
「ちなみにそれ聞いてたらひっくり返し時わかんなくなって焦げたんだけど」
「えッ」
「ストーブで焼くとうまいけど、たまにあるよなそういうときが」
「たまに?ねぇたまになの?昨日のあれは?」
「あ、折角見つかったんだから、それでバター塗って食ったら?俺はジャムかな……あ、苺のやつ出しといて」
「話を聞けよ人使いの荒い奴め」
「この程度で言われたくねぇ」
なんだかんだと言いながらテーブルに皿を並べていく。並ぶ、というのは言いすぎかもしれない。インスタントのスープが入ったカップにトーストと、バターと、ジャム。スプーン、そしてバターナイフ。
テレビの側に自分、向かいにルームシェアの相手が座ったら、朝の儀式の始まりだ。
両手を合わせて
「んじゃ」
「いただきます」
バターを塗っただけの、焦げたトーストは、苦いのにやたら美味しかった。