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〈レポート〉アルバムができるまで 三原未紗子 「CONTRAST」

2023年10月25日に発売となる三原未紗子さんの2ndアルバム「CONTRAST(コントラスト)」。その制作の裏側を一部ご紹介します。


キラリ☆ふじみ エントランス

収録は6月28日〜30日、富士見市民文化会館キラリ☆ふじみメインホールで行われました。

今回のアルバムテーマは、“神と悪魔”を主軸に“静と動”、“バロックと現代”など、並置された2つの対比をコンセプトとしています。三原さんが長年構想していたテーマで、選曲は収録半年前ぐらいから検討していたそうです。

三原 未紗子(ピアノ)
 2019年第26回ヨハネス・ブラームス国際コンクールピアノ部門にて優勝し、最も期待されている実力派ピアニストの一人。桐朋学園大学音楽学部、同研究科を修了。ベルリン芸術大学を最高位で卒業。平成29年度文化庁新進芸術家在外研修員としてザルツブルグ・モーツァルテウム音楽大学大学院に在籍し首席卒業。ソロ・室内楽において多くの演奏会に出演し好評を博し、また国内外のオーケストラと共演し、活躍の幅を広げている。
 2021年4月21日にはデビューアルバム「ブラームス Neue Bahnen」をリリースし、レコード芸術準特選盤に選出。

プロフィール(2023年10月現在)より抜粋

三原さんのデビューアルバムも同ホールで録音。所蔵のピアノ(スタインウェイ)のコンディションも良く、音響的にも素晴らしいホールです。

セッティング

朝からセッティング・調律を開始。

初日9時ごろから機材を運び入れ、マイクや機材セッティングを行います。スタッフはディレクターとエンジニアの他、ピアノ調律師を含め3名です。

今回は合計10本のマイクを使用しました。過去のデータを元に同じホールでピアノ録音を行ったときの資料などを参考にし、マイクの高さや角度、ピアノからの距離などを調整していきます。

客席通路にもマイクを設置。

モニタールームは楽屋を使用します。ここで録音した音を聴いたり、録音機の操作をします。ステージとも遠隔で会話もできます。

楽屋を簡易的なモニタールームに作ります。

調律

ピアノの調律は収録中何回も調律師が行います。音程を合わせるだけでなく、楽器や演奏者に合わせた細かな調整を行います。収録中も随時調整を行うので3日間同行しています。

収録準備。セッティングと平行して調律も同時に進行します。

試奏

10時半ごろ三原さんが到着。調律や録音の打ち合わせなどを行ったのち、試し弾きを開始しました。

「ピアノを起こす」ため弾き込みます。
マイクを通した音を確認中。

録音

準備が整ったらピアノを再調律し、いよいよレコーディングがスタート。一番はじめに、アルバムのメインとなるリストの30分を超える大作「ピアノ・ソナタ」を収録しました。スタッフは楽屋で録音機器の操作をし、舞台上では三原さん1人きりです。

全曲通しで録音し、終わると楽屋のモニター室で音をチェック。再度全曲を弾奏し、さらに気になるパートがあれば部分的にリテイク、途中休憩を挟みながらほかの曲も同様に録っていきます。

今回のコンセプトが「コントラスト」ということもあり、楽曲ごとに異なる表現方法が必要とされる収録でした。(ぜひアルバムを通してお聴き下さい!)

録音の様子は三原さんのYouTubeにアップされています。(演奏でお忙しい中撮影ありがとうございます!)

MV撮影

3日目の録音終了後、動画撮影スタッフによるMV(ミュージック・ビデオ)の撮影を行いました。

カメラアングルを変え数パターン撮影しました。

完成した動画はこちら!


ブックレット作成

掲載メッセージを三原さん自身に書いていただき、解説文を入れてブックレットを作成します。今回の解説は長井進之介さん(ピアニスト・音楽ライター)が執筆していただきました。

ジャケットは事前撮影写真を使用し、アルバムのコンセプトに沿うイメージで数案を試作しました。8月後半に三原さんご本人と打ち合わせし、白と黒が複雑に絡むようなイメージをさらに追加して仕上げました。

A-3の案を元にブラッシュアップ。
アルバム紹介文も作成。短い文でも内容が伝わるよう推敲します。

編集・マスタリング

1曲につき数回録音をするのでテイク(1回の録音)ごとに番号が振られています。収録をすすめる中で演奏者とディレクターが打ち合わせし、ベストな表現になるようどのテイクをどの部分で使うかを決め、全体の設計図を決定します。今回はディレクター自らが編集しました。(場合によっては編集をディレクターの指示で別スタッフが行うこともあります。)

演奏の指示やテイクが書き込まれた楽譜。

アーティストにイメージ通りかをチェックしてもらい、修正点があれば再編集します。編集作業が終わったらバランス・エンジニアによるマスタリング作業です。マスタリングとはバランスや音量、音圧などの調整をしマスター(原盤)データを作るとても大事な最終工程です。

CDプレス

完成したマスターデータと印刷物をCDプレス工場で量産します。CDだけでなく、デジタルデータでの販売も行っているため、別途配信音源やハイレゾリューション音源データの準備も行います。

完成!

6月末の収録から先行発売まで約3ヶ月を経て、お店やネットショップで販売されます。ぜひ完成した音をお聞きいただければと思います。2023年10月25日発売です。

 物語に出てくる神様と悪魔、この対象的な象徴は音楽作品へも多数描かれています。学生時代からこのテーマをもった音楽に魅力を感じ、インスピレーションの元になっている文学作品を読み、その見えない何かに想像力を膨らませてきました。
 真夜中、この道の向こうから影が忍び寄ってきたら...
 恐怖を感じるとともに、芸術の中では新たな世界が始まります。

 私にとって2枚目となるこのアルバムは、その“神と悪魔”を主軸に“静と動”“バロックと現代”などの対比をテーマにし、タイトルを「コントラスト」とつけました。

 私が留学したドイツやオーストリアでは現代作品についての授業もあり、また、ベルリン芸術大学在学中にはジョージ・クラム(George Crumb,1929-2022)による管弦楽作品のオーケストラピアノも担当する機会に恵まれ、円のようにぐるぐると書かれ小節が切り貼りされた楽譜を、UdKオーケストラの皆と演奏しました。そのような経験から現代作品への興味を増し、今年生誕100年を迎えたリゲティの大作エチュード集から2曲を収録しています。
 また、リーバーマンは1961年生まれのアメリカの作曲家で、この“ガーゴイル”は初めて聴いた時からその描き出された世界観の虜になっています。

 一番のメインはこのアルバムの最終曲、リスト作曲“ピアノ・ソナタ”。私の想像ではゲーテ“ファウスト”やミルトン“失楽園”からインスピレーションを感じ、冒頭の序奏については“アダムとイブが林檎に手を伸ばしては引き戻す”という一つの考察を読んだことから、そのイメージが頭から離れません。

 穏やかなバッハのカンタータから始まり、いきなり警鐘を鳴らすように始まるガーゴイル。そしてアヴェ・マリアが歌われるとリゲティの嘆きの歌と魔法使いが音色を変え、リストの愛の夢で救済を歌った後、何かを予言するようにリストのソナタが始まり全てのコントラストをつけてこのアルバムの幕を閉じます。

 私自身にとっても新たな試みと共に、冒険心を持ってこのアルバムを作りました。
 是非それぞれの「コントラスト」の世界観をこの一枚でご体感ください。
 お楽しみいただけましたら幸いです。

2023年10月 三原 未紗子

アルバムブックレットより

CONTRAST
三原 未紗子(ピアノ)

収録曲
J.S.バッハ:主よ、人の望みの喜びよ[マイラ・ヘス編]
リーバーマン:ガーゴイル
シューベルト:アヴェ・マリア[リスト編]
リゲティ:ワルシャワの秋(ピアノのための練習曲 第1巻 第6番)
     魔法使いの弟子(ピアノのための練習曲 第2巻 第10番)
リスト:愛の夢 第3番
    ピアノ・ソナタ ロ短調