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テロリストとのかくれんぼ

そう、帽子をかぶっているのが私。
こうやって何か記すべきかどうか考えた。この苦しみを伝え切れるわけはない。心はずたずただし、私の人生は元通りにはならない。愛する人たちの多くはもういないのだから。
最初に「私は大丈夫」と敢えて言おう。
友人たちが戻って来るか、せめて「彼らがどこにいるのか」ということが明らかになれば、私の壊れた心も少しは良くなるかもしれない。

事の始まりは日の出から。友人が肩車をして私を高く持ち上げてくれた時、突然、ロケット弾が見え始め、アイアンドームから迎撃音が聞こえた。音楽が止まり、「みんな、これは冗談でも夢でもない、攻撃だ、床に伏せろ 」と言われた。
この時、私たちは「大丈夫、またすぐに音楽始まるよ。」と自分たちに言い聞かせていたことを覚えている。私はまるで自分がヒーローになった様な大きな気持ちで、荷物をまとめるためにテントに戻った。徐々に、徐々に状況が明らかになり、その場に爆弾が降り注いできて、すぐに逃げなければならないことを理解した。私は車に向かう途中でパニックを起こし、膝がガクガクして体が硬直し、正常に息ができなくなった。
友人たちがずっと私の周りにいてくれて、彼らのおかげで正気に戻ることができた。この時点で、会場の外にテロリストがいて、ここから出ようとする者は撃たれるという情報が入って来た。人々はあちこちに向かって走り出し、車もどんどん発車していく。誰もはっきりと状況を把握出来ていなく、警察は、テロリストと軍隊が周りにいるから、このままここに留まった方がいいと言った。
銃声が響き渡っていたけど、イスラエル軍のものだと思っていた。外で何が起こっているのか、まだ分からない。再びパーティー会場に戻った。周りの人たちがイベント警備警察のいる場所に行った方がいいと誘導してくれた。国境警備隊のヤミットという女性がいて、大丈夫だと言って安心させてくれた。私は母に電話をかけ、母を愛していること、そしてここから出られるかどうかわからないことを伝えた。
その数分後、テロリストが会場内に侵入しているという悲鳴、銃で撃たれた悲鳴が聞こえて来た。左右で人々がどんどんと倒れていき、悪夢が始まった。
銃弾があらゆる方向から飛び交い、私のすぐそばにいる人たちにあたっている。私たちとテロリストのかくれんぼ、まさにゲームのようだった。彼らは私たちをその場に封じ込めるように周りに陣を固め、あらゆる方向から撃ってきた。彼らの姿は見えないので、どこから狙われているのかもわからない。ただただ人々が次々と倒れていくのを見るだけだった。
その時の恐怖、無力感、自分の人生がここで終わるという実感を言葉で説明することはできない。

私が一番いらだったのは、黄色いベストを着た "清掃係 "がパーティーの後片付けを普通に続けていたことだ。彼らはまるでスーパーに買い物に行くかのように、落ち着いてその場の片づけをしていた。彼らは初めから何が起こるのか知っていたとしか思えない。
最初、私たちはテントがある場所に隠れ、同時に他に逃げられる場所はないかと考えつつ車に向かって走った。車には、私とケイト、リナ、そして一緒に乗りたいと頼んできた男が乗っていた。車を発車させ、周りに他の車がないか見回した。駐車場に最後まで残っていた車は私たちだけだったようだ。今思うと、だからこそ助かったのだとわかる。

私たちは黒い車の後ろをついて走って行ったが、ATVに乗ったテロリストの部隊がいるところに行ってしまった。ケイトがUターンして逃げようとしたが、彼らが窓から爆発物を投げつけてきた。

なんとか他の道に出れたと思ったら、テロリストたちが全方向から銃を撃ってきた。とにかくが必死になって高速道路を目指した。交差点を右折し、会場からの出口へとつながる232号線に向かった。しかし、そこにもテロリストがいて、FNマガジンライフルで私たちに向かって発砲してきた。
道端にある車の中は死体であふれている、地面にも死体が転がっていた。私たちはその死体を轢きながら、命からがら逃げ続けるしか術がなかった。
さらに進むと、テロリストが道路を封鎖しているのが見えたので、ケイトは右折し、私たちは道なき道を走った。車は2回くらいひっくり返りそうになったが、ケイトの運転のおかげで助かった。銃弾が車輪と車体に当たり車は破壊されたが、私たちには銃弾は一発も当たらずに生きのびることができた。
その後、車を離れ、7時間、水が半分だけはいったボトルを持って、とげだらけの茂みの後ろに隠れた。7時間もの間、私たちは銃声を聞き、銃弾による砂ぼこり、また爆弾やロケットの音を聞き続けた。
7時間隠れていたその場所は、キブツ・ベエリとキブツ・レイムの中間くらいだった。警察や救助隊に電話したが、全部電話を切られた。誰も助けに来なかったし、この声は誰にも届かなかった。後で聞いたところによると、治安部隊は私たちがいたその場所をわかっていたが、テロリストに囲まれていて、近づくことは不可能だったそうだ。
 4時間半後、武装したアラブ人たちがついに私たちを見つけた。私たちと一緒に来た男が、すぐさま彼らに立ち向かっていったので私たちは気づかれずに済んだ。彼はアラビア語で彼らに話しかけ、水とタバコを要求して去っていった。その2分後、私たちの車が発進して走り去る音がした。彼らは私たちの車を奪っていったのだ。
みんな脱水症状で横たわり、怯えながら、誰かが助けに来てくれることを神に祈ること7時間、エラド・ラウパーという男性がケイトに電話をかけてきた。
私は電話を取り、助けに来てと彼に泣き叫んだ。こんな風に必死に懇願したのは生まれて初めてだった。彼は私に「電話を切らないでおいて、今すぐ向かうから」と言ってくれた。辺り一面はテロリストに囲まれていたが、彼が助けに来てくれた。車には名も知らないもう一人の男性が乗っていた。
水もくれた。そして頭を低くして、外を見ないように、死体も見ないようにと言った。
彼は私たちを集合地点で降ろし、そこからバスで父が待つベエル・シェバまで向かった。

話はここまで。

ロテム Y.


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