見出し画像

屠殺場の羊のように、僕らは逃げ惑った

僕もあの場所にいた。だからこれもたくさんの恐ろしい経験、目覚めることのできない悪夢のひとつだ。皮肉にも「悪い旅だった。」と言った人もいる。
夜、パーティーに着いたとき、「エシュコル地域協議会」という標示に目が留まった。仲の良い友だちに、この辺りはいつもミサイル攻撃を受けるのかと尋ねた。答えはイエス。それで、その場所は、特に良くない地域の近くだと理解した。でも、もう着いちゃったし、静かな時間だったから、僕たちは自分たちの「ノイズ」を立てに来たんだ。それは喜びと愛のノイズだ。

今回は珍しく「時間通り」に出発できたし、余計なプレッシャーもなく来れたので、本当に楽しめていた。僕たちがテントを張ったところは、あのことが起こった時にみんなが一斉に逃げ出したちょうどその場所だった。久しぶりに会った親友は、異常なくらい強く長く抱きしめてきた。まるで、これが最後のハグだと知っているみたいだった。また後で会おうと約束したけど、結局パーティー中、会いに行く時間がなかった。彼は今も行方不明だ。イスラエルの全国民が無事を祈っている、他の人たちと同じように。

僕たちは冗談を言い合いながら踊っていたんだけど、爆音がして、音楽はその瞬間に止まった。サイレン「レッド・アラート」が鳴り響き、空には打ち上げ花火のごとくミサイルが飛んでいた。一瞬、お祭りの様だと錯覚したけど、これは違う、この地ではそんなことはあり得ない。その場をすぐに離れようとする人はあまりいなかった。「ミサイルはいつものこと」だから。「車の中や駐車場にいるより、ここにいた方がいい。移動する方がもっと危険だから。」と言う警備員もいた。でも、僕たちはイスラエル中心部から来たんだし、帰るには遠い。状況が悪化したらどうする?! 僕たちは、騒ぎの中で荷物をまとめて車を見つけて走り出そうとしたけど、右も左も渋滞で、みんな立ち往生、一向に前に進まない。

その後に聞こえた叫び声で、心臓が一瞬止まりそうになった。足も凍りつく。「車から出ろ!どこでもいいから逃げろ!あちこちからテロリストが撃ってくる!とにかく走って、祈れ!」
言われていることを完全に呑み込めないうちに、鳴り止まない銃声が聞こえてきた。負傷して血を流している、頼れそうもない警官が僕たちを誘導しようとしてくれているけれど、彼自身どこに誘導すればいいのか分かっていない。前には野原と果樹園が果てしなく続いているだけ。そこから先は、自分とテロリストと神だけしかいない。

ノンストップで6時間、裸足で走り続けた。頭にあることはただ一つ、生き残る、生き残る、生き残る、それだけ。生き残るためなら、どんな感情的かつ肉体的ハードルも乗り越えられることだろう!
まるで屠殺されようとしている羊のように、あらゆる方向に逃げ回る。Googleマップを使って、その方向が正しいのかどうかもわからないまま。あっちの方がいいのかも?と思って、その方向に走って行くと、狙撃手の銃声がどんどん迫ってくる。さらに、頭上では虹のようにミサイルが飛び交い、それが開けた野原、まさに僕たちがいるその場所に落ちてくるのは、なんと素晴らしいことか(皮肉)。茂みやビニールハウスなど、あらゆる形あるものに身を隠した。
とても喉が渇いていた。水を見つけたと思って、落ちていたジェリー缶(軍事に使う燃料が入っている缶)を取って口にしたが、水じゃない!何か恐ろしいものを飲んでしまった。逃げながら、テロリストに捕まらないように、正しい人たちに付いていき、安全な場所へ行けるように祈った。
どの治安部隊からも、一切反応はなかった。そこで初めて、この国が完全無防備な状態で、史上最悪の不意打ち攻撃を受けたのだと理解した。悲しみ嘆きながら、この危機を抜け出せないかも知れないと、家族に別れのメッセージを送った──何があっても幸せでいてほしい。いつでも心の中にいる。孫ができたらイドと名付けてほしい。

それからどれだけ時間が経ったのか分からないけど、何人かの友人たちが、「サボテンの辺りに警官が一人いる」と教えてくれた。そう、たった一人。それでも、ようやく、何か新鮮な空気みたいなものを吸えた気がした。僕は、何が何でもそこにたどり着こうとした。僕にはサボテンの入れ墨があって、これまで、「なんでサボテンなの?」と聞かれる度に、僕はこう答えてきた。「サボテンは何があっても生き残るから。」

絶対にそこに行かなくては。警官と一緒にいたい。
彼の名前はイゴールといった。彼なりにベストを尽くそうとしてくれたけど、たくさんのテロリストに対して、所詮彼も一人の男に過ぎない。それでもイゴールはパティシュの住民に連絡を取ってくれた。まもなく、水色のシャツを着た天使がピックアップトラックでやってきて、僕たちを地獄からパラダイスへ救い出してくれた。僕のことを良く知っている人は、僕が猫みたいに怖がりなのを分かっている。仲の良い友人は、最近こんなことも言っていた。「いつか、モランの心配性に救われる時が来るね。」って。

僕の愛する人たち、僕の魂、あの時、あの場所にいたすべての人に感謝します。僕たちを心優しく受け入れてくれたパティシュの皆さんに感謝! 行方不明のすべての人たち、誘拐されたすべての人たちにハグと、キスと、祈りを捧げます。みんなが帰ってくることができるよう祈っています。心から祈っています。すでに奇跡によって助かった人たちもいるけど、絶対に、君たちにも奇跡が起こると信じてる。そして、次のタトゥーは……裸足のヒロイン、モアナにしようと思う。

モラン・V

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?