見出し画像

こんなときでも食い気なのかよ!強欲な息子の闘病3日間

我が家の小学2年生の息子が、久しぶりに高熱を出したのは、金曜日の朝だった。
「お腹が痛い」と言ってトイレに行くが、何も出ない。

そういえば、と前日の夜の歯みがき中に、息子の舌の裏に口内炎を見つけたことを思い出す。
(息子はひどいダニ&ハウスダストアレルギーで、半年ほど前から免疫舌下療法中。そのことについてはまた後日)

『なんか知らんけど免疫が下がってんのかね。最近急に寒くなったしなあ』とそこまで考えて、『来週の娘の宿泊学習、行けるかなあ』と心配になった。
この時分、いつも以上に気をつかいながら準備をしていた矢先の息子の発熱である。
一瞬不穏な考えが頭をよぎったが、小学校や私の職場への連絡とか、小児科の予約とか、娘の弁当作りとか(その日に限って給食がない日だった!)、次にやらねばならないことに思考を持っていかれた。

「お姉ちゃんだけお弁当ずるい!」とむくれる息子(いちばんの不満はそこなのか)をなだめながら、何とか娘を送り出す。
合間にあちこちに電話をかけ調整を取り、9時の小児科受診を目指して、頭も体もフル回転して家事をこなした。



小児科の駐車場や待合室は、それなりに混んでいた。
先生の診断も、私の当初の見立てと変わりなく、免疫が下がったところに何かのウイルスにやられたんでしょうとのこと。
「ぐっと寒くなったからね~。先週あたりからここも急に小児科っぽくなりましたよ」と看護師さん。
いくつか薬を処方されて、帰路につく。

自宅までは小児科から車で5分ほどなのだが、息子はその移動中ですらしんどそうで、家につくなりソファに倒れこんでしまった。



普段おしゃべりな彼は、私の両親にカタール王国の王子(しょうもないこのシャレ、説明いる?)と呼ばれているのだが、見る影もなく憔悴しきっているところを見ると、さすがに心配になってくる。

「お昼何食べたい?」といちおう聞くが、「うーん……」と言うまま返事はない。
どうにかポカリスエットを少し飲めているくらいなのだから、無理もない。



実は朝、娘の弁当を作る際に、あんまり息子が「ずるい」とうるさいので、昼に家で食べようねと息子の分も作っていたのだが、『これはたぶん私の腹に納まることになりそうだな』とソファでのびている息子を見て思った。

さきほど小児科では38℃を超えていたし、口内炎(舌下炎?)もかなり痛そうで、私だったらとても食べようという気にならない。
そう思って「このお弁当さ、とっておいても痛んじゃうし、今日はママがお昼に食べるよ」と息子に声をかけるやいなや、がばっと起き上がって、

「えっ、ダメだよ!ずるいよ!」

断っておくが、大した弁当ではない。7割冷凍食品である。
ゆえに再現性も高い。同じ商品を入れればいいので。
そう言うと、高熱を出しているのでさすが抵抗する気も失せたのか、息子はそれ以上何も言わなかったが、明らかな不満顔である。



息子は、自分だけ何かをしそびれるという状況が大嫌いなのだ。
そしてことさら、食べることに関しては、強欲という言葉がぴったり当てはまる。
こっそり息子抜きでアイスなどを食べようもんなら、うるさいことこの上ない。

学校ではどうなのかと思って、何度か先生に聞いたこともあったが、外の世界ではいちおう自制しているようである。
空気は読めるほうなのだ。



わがままな息子に育ててしまった自覚はある。
しょうがないやつだと怒りながらも、母親である私はついつい甘くなってしまいがちだ。
おまけに小学4年生の娘。弟である息子を、それはそれは可愛がっている。
こんな2人がそばにいては、とんだ甘ちゃんに育ちそうだが、そこは夫である。

夫自身も姉二人の末っ子長男で、かなり甘やかされて育ったようだが、同じように甘やかされている人間には手厳しいのだ。
夫はほどよく息子に冷たい(私にはそう見える)ので、そこでバランスは取れている、と思っている。



さて、それからもうちの強欲な息子は、家族が食べている食事をうらやましがりながらも、実際には息子用にと出したうどんすら半分も食べきれずに3日を過ごした。

そもそも、熱が一向に下がってこない。
息子の体内で何かが悪さをしているのは明らかだが、思い当たる節が何もなかった。

金曜日の朝に発症・受診して、そのときに処方してもらった解熱剤を、こんなにありがたく思ったことはない。
なぜか夕方から体温は上がりがちだが、解熱剤が効いている間だけ息子が眠れるので、私も夜中に何度か起きて水分を取らせたり、解熱剤を追加したりとすっかり寝不足になった。

とにかく土日を乗り越えよう。月曜日の朝イチでもう1回小児科にかかろう。
その一心で頑張っていた息子の闘病生活は、3日目の夜、息子の口の中に新たな口内炎を見つけたことで急展開を迎えた。

次の日の朝に行った小児科でついた診断名は、ヘルペス性歯肉口内炎だった。
「1年を通して何人か患者さんが出るけど、だいたい乳幼児が多いから、息子さんはちょっと珍しいケースだったね」と先生。

ヘルペス?って口角炎とか出るやつだよね?
こんなに熱出るの??

帰ってからネットで調べてみると、
・単純ヘルペスウイルスによって引き起こされる病気だが、このウイルスに感染しても10%ほどしか発病しない(多くは無症状)
急な高熱により発症し、3日ほど経ってから歯肉が張れたり、口内炎ができたりするようになる
・舌や口唇などにも水泡ができることがある
・発熱は1週間ほど続くこともある

当てはまってる……
ぴったり当てはまってる!!
まだ息子の発熱は続いていたが、原因がわかって、私はものすごくほっとしたのだった。



そんなわけで今はせっせと抗ウイルス薬を内服している。
熱もようやく37℃台に下がってきた。

再受診後も、新たに息子の口の周りや口内には水泡ができ、歯肉も見るからに腫れていてとても痛そうなのだが、今日の彼は少し目を離したすきに、ばかうけを食べていた。
「カレー味にすると沁みそうだから、コンポタ味にしといた」と話す息子に、思わず「いや、沁みるのは一緒だろ」とツッコミながらも、ようやく見えた回復の兆しに、ほっとする母なのであった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?