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Chut! INTIMATESの思い出

 ランジェリーブランド「Chut! INTIMATES」が今月末でブランドを終了する。昨年の秋頃に第一報を耳にして「そんな!これから、どうしたらいいの?」と動揺したファンは、きっと私だけではないだろう。唯一無二の魅力があるブランドで、長年の愛用者も多かったに違いない。ここ5年くらい、私のインナーワードローブはChut! の下着(ブラショーツ以外のインナーも含む)の独占状態にあった。

 23歳で親元を離れて一番うれしかったのは、下着を自由に選べるようになったことだ。街のランジェリーショップに並ぶ、乙女心をくすぐるデザインのブラジャーやショーツへの憧れを胸に秘めながらも、実家にいる間は母がカタログ通販で見繕ったものしか身に着けてこなかった。一度はバイト代で自分の好きな下着を買ってみようと思ったものの、ふしだらだと詰られるのが恐ろしくて手が出せなかった。

 下着は公共空間で衆目に晒されるものではないから、色柄形を選ぶときに「社会が求める自分」にフィットさせる必要がない。無骨な体格でもピンクのレースを身に纏っていいし、色味を春夏秋冬に当てはめて、自分の肌色に適しているかどうかジャッジしなくてもいい。もっとも自己満足を追求できる買い物はこれだと気がついた。

 有名メーカーのブランドからセクシー系のメーカーまで、買える価格帯のランジェリーを一通り渡り歩いてきた私に、一番しっくりきたブランドがChut! INTIMATESだった。同ブランドの定番である「シアーライトブラ」は、素材やデザインが好みに合うだけでなく、「バスト、別に盛らなくてもいいんじゃないか?」という重大な気付きをもたらした。上から衣服を着用した時の身体のラインが、自分の目に初めて、自然に心地よく映ったのである。

 ここ数年でChut! のブラジャーのシリーズは全制覇したはずだ。特にお気に入りなのは、ノンワイヤーの「クロスフィットブラ」である。乳房の下側に張りのある布地を当てて支えるタイプ(W社)のノンワイヤーブラに慣れていた私にとって、クロスフィットブラの、アンダーバストで交差する布によってなぜか寄せて支えることができる設計は衝撃的だった。そしてなにより、愛着の沸くオシャレなデザインと、日々テンションを上げてくれるポップな色合い。楽なのに「よそ行き」のときも全く気後れしない作りで、全方位優勝、365日身につけていられる万能のブラジャーである。

 長袖のコットンシルクインナーもまとめ買いして愛用している。ヒートテック系のインナーは少し動くとひどく汗ばむので、そうならない保温インナーを探していた。ブランド終了と聞いて真っ先に思いついたのはこのインナーの買い溜めだったが、オンラインストアではいち早く品切れになっていた。特にファンが多い製品だったのではないかと思う。

 実は、昨年の夏ごろに「ふわふわおっぱい」というコピーを見かけてから、ちょっと嫌な予感はしていた。性的な関係にある人からの評価を高められるかのように仄めかす言い方は、このブランドのコンセプトにふさわしくないのでは、と思った。しかし、従来の購買層以外にもどうにかして訴えなければならなかったのだと、今ならば分かる。快適な下着を求める人はユニクロでブラトップを買うのだろうし、素敵なデザインを楽しみたい人にとっては、たくさんある選択肢のうちの一つでしかない。

 最後に溜まったポイントを使って「シアーライトブラ(LUXE)」と、同じデザインのショーツをオンラインストアで購入した。商品はふつうの段ボール箱に入って届いた。ブランドカラーのターコイズブルーと、ショッキングピンクで彩られたChut! の専用箱が懐かしい。毎回「写真集ですか?」ってくらいこだわって作られていた新作のフライヤーは、当然ながら入っていなかった。ただ、薄紫色の薄用紙に包まれているだけは往時と変わらなかった。

 Chut! なき後、やはりどうすればいいか分からない。一度使い始めてしまえばすぐに汚れたりほつれたりする下着は、後世に保存されもしないだろう。いち消費者にできるのは思い出を記すことくらいだ。
 これまでChut! INTIMATES のブランドを守ってくださったみなさん、ありがとうございました。またどこかでランジェリーに携わられることを願います。

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