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読んだ本

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自分が読んだ本についての、感想、コメント、連想を、気ままに書いています。
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2021年3月の記事一覧

#76:境敦史・曾我重司・小松英海著『ギブソン心理学の核心』

 境敦史・曾我重司・小松英海著『ギブソン心理学の核心』(勁草書房, 2002年)を読んだ。本書は、巷に広がるギブソン心理学に関する誤解、とりわけアフォーダンス概念に関する誤解を正すことを狙いの一つとした本のようである。ギブソンの経歴や研究歴、同時代の他の研究者たちの研究との関連などを論じながら、著者たちはギブソン心理学やアフォーダンス概念を本来の文脈に位置づけて、ギブソン自身の考えのエッセンスを読者に示すことに取り組んでいる。  確かに、ギブソンの造語とされるアフォーダンス

#75:中川敏著『言語ゲームが世界を創る 人類学と科学』

 中川敏著『言語ゲームが世界を創る 人類学と科学』(世界思想社, 2009年)を読んだ。腰巻の帯の惹句が内容を本書の的確に伝えている。「人類学者にはならないあなたのための人類学入門 ゲームの数だけ世界がある。ゲームの数だけ真理がある。高校生にもわかる、それでいて高度な、あなたの脳を鍛え、あなたの世界を塗りかえる、理屈人類学への招待状。」  著者は人類学者で、本書のタイトルにも使われている「言語ゲーム」という用語は、ウィトゲンシュタインの用語とは直接の関係はない。ただし、「意

#74:斎藤幸平著『人新世の「資本論」』

 斎藤幸平著『人新世の「資本論」』(集英社新書, 2020年)を読んだ。私は基本的に天邪鬼なので、よく売れている本を後追い的にリアルタイムで読むことを好まないのだが(たぶんそれで損をしてきた面も少なくないと思われる)、本書は、少し前に番組を視聴し、Mookも読んだ『100分 de 名著「資本論」』が興味深かったことから、日頃の志を曲げて(笑)、読んでみた。  読んでみての感想は、『100分 de 名著「資本論」』のときと大きくは変わらない。『100分 de 名著「資本論」』

#73:鴻巣友季子著『翻訳教室 はじめの一歩』

 鴻巣友季子著『翻訳教室 はじめの一歩』(ちくま学芸文庫, 2021年)を読んだ。2012年にちくまプリマー新書として刊行された本の文庫化とのこと。知人から本書の存在を教えてもらった。感謝。  本書の中心的なメッセージは、「よく訳すためには、よく読めるようになること。これに尽きます。よく読めれば、よく訳せる。」(p.15)という著者の言葉に凝縮されているように思う。私は自分の興味関心から、著者の語る翻訳の話を、心理療法の実践や心理療法を学ぶ過程に重ね合わせて読みたくなる部分

#72:小森収編『短編ミステリの二百年 3』

 小森収編『短編ミステリの二百年 3』(創元推理文庫, 2020年)を読んだ。本巻に収録されている作品は11篇。これまで読んできた『1』『2』と比べて、収録されている作品が書かれた時代が進んできたせいもあってか、読んで唸らされる作品の比率が、本巻はかなり高い。  私が特に評価する作品を収録されている順に挙げれば、メルヴィル・D・ポースト「ナボテの葡萄園」、トマス・フラナガン「良心の問題」、シャーロット・アームストロング「敵」、スタンリイ・エリン「決断の時」、フレドリック・ブ

#71:椎名誠著『活字のサーカス 面白本大追跡』

 椎名誠著『活字のサーカス 面白本大追跡』(岩波新書, 1987年)を読んだ。手持ちの本は、最近中古書店で入手したもの。奥付には「1988年1月10日第8刷発行」とあり、第1刷発行の日付が1987年10月20日となっていることを考えると、岩波新書としては当時は異例の売れ行きだったのだろう。  若い頃は著者の本をよく読んだものだった。単行本としては、『さらば国分寺書店のオババ』『哀愁の町に霧が降るのだ』『わしらは怪しい探検隊』『怪しい探検隊、北へ』『岳物語』『続・岳物語』『パ

#70:ヤン・プランパー著『感情史の始まり』

 ヤン・プランパー著『感情史の始まり』(みすず書房, 2020年)を読んだ。先日読んだ『感情史とは何か』も興味深かったが、本書もとても興味深く読ませてもらった。  本書は、感情に関する社会構築主義的アプローチを一方の極に、普遍主義的アプローチを他方の極に配置する形で論述が進められる。社会構築主義的アプローチの代表格として文化人類学的なアプローチが、普遍主義的アプローチの代表格として神経科学的なアプローチが取り上げられているが、とりわけ、後者に対する批判的論述に力が入っている

#69:渡辺弥生著『感情の正体 発達心理学で気持ちをマネジメントする』

 渡辺弥生著『感情の正体 発達心理学で気持ちをマネジメントする』(ちくま新書, 2019年)を読んだ。タイトルにもあるように、感情を主題とした本であるが、サブタイトルの方が本書の特徴をよく言い表しているように思う。  内容は盛りだくさんであり、取り上げられる話題、紹介される研究は豊富である反面、いささか羅列的になっているきらいがないでもないと、私には思われた。また、個人的には、「感情」や「気持ち」を「マネジメント」の対象とする基本的な発想そのものに、強い違和感がある。「感情

#68:本田和子著『異文化としての子ども』

 本田和子著『異文化としての子ども』(ちくま学芸文庫, 1992年;原著は紀伊國屋書店, 1982年)を読んだ。学生だった頃から、いろんなところで本書が引用されているのに触れていて、一度読んでみたいと思っていたが、そのうちに機会を逸してしまっていた。今回、ひょんな巡り合わせで、やっと読むことができた。  著者のスタンスは、「子ども」を「大人の社会」に導き入れられる、あるいは「社会化」される前の、異質な存在としてまなざすことにあると思われる。「子どもである」ことに、固有の価値

#67:麻耶雄嵩著『友達以上探偵未満』

 麻耶雄嵩著『友達以上探偵未満』(角川文庫, 2020年)を読んだ。初出は2018年に角川書店から単行本として出版されたもの。  確認してみたら、単行本としてこれまでに刊行されている著者の作品はすべて読んでいる。あな恐ろしや。私は元々は著者の作品をまったく評価できなかった。デビュー作の『翼ある闇』を、刊行後しばらくしてから読んだはずだが、この時の印象が最悪レベル(笑) それから長らく著者の作品を手に取ることはなかった。  たぶん15年くらいは見向きもしなかったのだが、たま