Ver.1
当時の恩師に憧れてきた幼稚園教諭として勤めてきた2年6か月。
挫折続きだった仕事もようやく波に乗ってきて、“ まだまだ ここから ” と意気込んでいた。
ひとり暮らしにも慣れ、自分の生活を楽しめるようにもなった2020年の秋。
わたしの身体に名もなき病魔が襲いかかった。
◎9月
物が二重に見える複視、思わず倒れこむほどの頭痛、黄色いライトに対しての異常なまぶしさ、全身脱力、左半身の痺れ・感覚異常・麻痺、飲み込みにくさ、呂律のまわりにくさ。
それまでまったく経験のなかった症状が毎日次々と蝕んでいく恐怖感が次第に大きくなり、身体の制御が日に日に効かなくなっていく。
人生ではじめて左足の膝から下の感覚が完全になくなった。
人生ではじめて救急車を自分で呼び、緊急搬送していただいた。
採血、頭部CT、頭部MRI、頚椎MRI、腰椎穿刺。
人生ではじめてここまでたくさんの検査を受けた。
見つかった異常は右側側頭葉の浮腫と、あるはずの腱反射反応がないということ。
医師から告げられた疑わしき病名は、聞きなじみのない難病だった。
◎10月
紹介状をいただいて大学病院を受診。主治医の問診後、緊急で連絡を取っていただき、人生4度目の頭部MRI。やはりわたしの右側頭葉には浮腫がはっきりと映っていた。
すぐさま決まった入院。前日に提出したPCR検査は陰性。同居している家族ですらも面会禁止となるため、車を出してくれた父と付き添いの母に励ましの言葉をもらった。
胸部レントゲン、心電図、採血、腰椎穿刺、尿検査、脳波、造影剤を使った頭部MRI、核医学検査、体性感覚誘発電位検査と、専門的な検査を受けたが、頭部MRIで見つかった右側頭葉の浮腫のほかには何の異常も見つからなかった。
ベッドの上では、高校のときから興味があっていつか仕事にしたいと思っていた発達支援の勉強を体調に合わせて毎日進めた。左手の力や感覚を取り戻すために折り紙を折った。感覚が鈍く力の入りにくい左足のために、6階の病棟から1階のコンビニまで毎日通った。
退院の日程が決まり、頭部MRIの画像を見せていただきながら、両親とともに主治医の話を聞く。右側頭葉の浮腫は9月から悩まされてきた症状とは結びつかず、聴きなじみのない難病か生まれつきの形成不全ではないか、ということを告げられた。
19日間の検査入院で新たに分かったことはなにもなかった。
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